『異説:桃太郎を倒せたら100万両』

 その男、桃太郎は罪人だった。


 生い立ちは桃から生まれたという、面妖なるものだったので、幼いころはいじめにあっていた。その反動か、桃太郎は次第にやさぐれた。軍も手を打ちたいが、桃太郎は強かった。


 その剣の才能は天性のもの。次々と猛者を跳ね返してきた。


「帝様!!奴の蛮行は目に余りますぞ!!何とかしてくだされ!!」


 ついには懸賞金をかけられた。その額なんと100万両!!…にもかかわらず、一向に桃太郎は討ち取れない。


「100万両の首にしても、誰も討ち取れんとは…」

 帝の怒りは頂点に。ついに最後の策を講じた。


「仕方ないな…。天下三剣を招集せよ!!」

「て、天下三剣ですか!?」


『白狼』『金猿』『蒼雉』どれも天に名を馳せた剣の達人だ。


 しかし…。


「…めんどい…あーめんどい。何が悲しゅうてお前らと…」

「それは私も同じよ。貴方らの顔なんか見たくもないのに」


 三人は非常に仲が悪い。誰が発した言葉かはわからないが、


「まあ、いいじゃないか。当然、100万両は折版だよな」


「え?」

「え?」

「…え?」


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


 …その日の空気はどこか張りつめていた。桃太郎はその異変を

見逃さない。完璧に消したはずの三人の気配を掴んでいた。


「…出てこいや。儂を出し抜くなんぞ、軽率ぞ」

「…流石に、一筋縄ではいかないな」


 天下三剣の剣気はすさまじい。桃太郎の連れは、それだけで怖気づいている。だが、当の桃太郎はたじろぐどころか、


「不意打ちに出ないとは上等だ。だが…3分で十分だ」

「舐めやがって…!!後悔しやがれ!!」


 凄まじい3人の太刀筋の嵐。しかし、桃太郎は全て軽くいなし、峰打ちであしらってしまった。


「かっ…はっ…」

「丁度、3分だったな」


 桃太郎は、舶来品の懐中時計を見た。彼の腕前は天をも凌駕している。空には月が上がり、止めを刺そうとしたとき、


「お待ちなさい!!」


 一人の女性がその凶刃を止めた。


「え…!?か…かか…!?」

「かぐや様!?」


 その女性は帝の娘、かぐや姫。絶世の美女として世に知られている。だが、一番意外だったのは、


「…美しい…」


 桃太郎の腑抜けた表情だった。完全に一目惚れ、骨抜きだ。


「儂の嫁になれ!!それが相応しい」


 呆気にとられる天下三剣、かぐやのお付きの者、桃太郎の部下たち。普通に考えれば、そんなこと受け入れるわけがない。


「いいでしょう。あなたが悪事から手を引くのならね」

「了解した!!おい、今から桃太郎党は解散だ!!」


「え…えええええ!?」


 それからというもの、桃太郎は人が変わった。野党、悪党、海賊、盗人、片っ端から成敗した。


 そして彼らはついに、恐怖の元凶、鬼の住まう鬼ヶ島へと向かう。小舟に乗せた部下はあの天下三剣…だった三人、桃太郎の部下として定着した。


「やあやあ、儂らは桃太郎と愉快な仲間たち!!人間に害するお主らを退治しにやって来た!!」

「愉快な仲間たちって…俺たちのことか?」

「堕ちるとこまで堕ちたな…」


「ははははは!!貴様らがあの悪名高い、桃太郎達か!!昔なら、意気投合できたかも知れんがなぁ…残念じゃ」

「辞世の句はそんなもんでいいな!!行くぞおおお!!」


「おおおおおおーーーーーーーッ!!」


 それは語るにも語れない、激しい戦い。だが歴戦の猛者の桃太郎たちは、死闘に打ち勝ち、これで桃太郎はかぐやと祝言が挙げられる。意気揚々と都に凱旋した。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


「かぐや!!今帰ったぞ!!さあ、夫婦の契りを…んん?」


 しかし、城のどこを探しても、かぐやの姿がない。業を煮やした桃太郎は、帝を問い詰めると…。


「実はな…異国の皇子の元に輿入れしてな…申し訳ないが…もう、この国にはおらんのじゃ…」

「はあ!?」


「一番の策士は姫だったか…」

「納得いかぁあああん!!攻め込むぞ、お前ら!!国崩しじゃ!!」

『…一人でやってくれ。もう知らん…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る