『桜の恋と悲しみと憎悪と愛』

「健之助様!!必ず戻ってきてくださいね!!」

「ああ…皆様、行って参ります!!」

「健之助、バンザーイ!!健之助、バンザーイ!!」


 時は昭和。学生だった奈津子と健之助は恋人の関係だった。街の中心の丘の桜の樹の下で、変わらぬ愛を誓った。


 しかし、健之助は第二次世界大戦の徴兵制度で、出兵。その姿を見ることは二度となく…。


 遺骨だけが戻ってきた。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


 そして時は流れ、令和。戦争を知らない世代がたくましく生きている。高崎中学校オカルト研究会。最近、活動記録が芳しくなく、先生たちにも目を付けられていた。


「このままではいけないわ!!さだやん!!何か案はない!?」

「会長はすぐ無茶ぶりをする…ついに、あの話に触れますか…」


 彼らは例の桜の樹に目を付ける。そこは幽霊の目撃談が数多くあるスポットになっていた。会長はノリノリ。さだやんは半信半疑。てっちゃんはカメラを構えて準備万端だ。


 オカ研は張り込みを続けるが、幽霊は一向に現れない。彼らは、戦争で引き裂かれた恋人の話を掴んでいた。


 しかし、毎日、桜餅を備えに来る女性がいた。それが老婆で、幽霊の恋人ならスクープだが、世の中そう簡単ではない。


「あらあら、またあなた達、来てたの?桜餅食べる?」

「いえいえどうも、お気遣いなく」


 お供えに来ていたのは若い女性だった。幽霊こそいなかったものの、彼女と仲良くなり、戦争の話を聞くことが出来た。


 やけに詳しく生々しいが、何故か気にはならなかった。


 オカ研はそれらの話をまとめ、校内新聞で戦争の悲惨さを伝え、注目された。活動も別の形だが認知され、事なきを得る。


   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇   


 だが、話はこれでは終わらない。ある企業があの桜の樹の丘の土地を買収し、大型ショッピングモールを建てるという。


 桜の樹は無残にも伐採され、平地になった。そして、工事に着工…するのだが、不可思議なことが畳みかける。


 事故などは生温い。禍々しい瘴気に包まれ、疫病が蔓延し、次々と入院者が出る。これは異常というレベルではなかった。


 ある日、工事現場から二人の人骨が出てきた。それを聞いたオカ研は、あの噂が真実と悟る。この遺骨は奈津子と健之助のものと確信した。この事故は二人の怨念がそうさせている。


 その昔、奈津子は健之助の遺骨を桜の根元に埋めた。自分の遺骨も同じところに埋めることで、誓いの桜の樹の元で永遠の愛を育んでいた。この桜の樹は彼らの墓だったのだ。


 そして、手つかずの奈津子の母屋から写真が見つかった。若い女性の写真。あの桜餅を備えていた女性その人だ。彼女は若いころの奈津子その人。オカ研は確かに、幽霊と接触していた。


 てっちゃんのカメラには、何度も一緒に撮ったはずなのに、彼女は一切写っていない。彼らはゾッとして息を飲む。


 それをマスコミは面白可笑しく特集して、被害は広がりを見せ、果ては『第二の貞子事件』と呼ばれた。しかし、それは奈津子と健之助の怒りを買うだけ。日本中が呪いに包まれる。


 数年後、オカ研のメンバー達は、この件で免疫がつき、様々なオカルト事件を解決し、オカルトバスターズとして成長していた。インチキ霊媒師などより、よほど頼りになっている。


 …ついに『第二の貞子事件』との決着を挑むことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 月曜日 18:00 予定は変更される可能性があります

『ショートショート』はたはた鍋 はた @HAtA99

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ