第二章 2話(1)
教科書を教室に置いてから食堂を訪れると、昨日と同様に多くの人で賑わっていた。なので食堂は諦めて、昨日と同様に自動販売機の軽食で凌ぐことにした。
ただ昨日と違って、気になる人物がいた。
「オススメはハムカツサンドだぞ」
自動販売機の前で悩み込んでいたのは、琥珀の友人である衛藤小豆だった。
女の子らしさを感じる角のない輪郭に白くて綺麗な肌質。髪型は愛嬌のある三つ編みを対側へ流していて手が込んでいると分かった。
小豆は絵馬の声に振り返る。
「美空絵馬先輩」
「なが。絵馬だけでいいよ」
「じゃあ美空さん」
「何も採用されなかった」
「こんにちは、美空さん」
折り目正しく、挨拶をしてくれる。同じ敬語でも、琥珀とは違って口調や表情には柔らかさがあった。
「それより、どうされたんですか?」
「何を買うか悩んでそうだったからオススメ言おうかなって」
「あっ、なるほど。ありがとうございます」
言いながら小豆はハムカツサンドのボタンを押していた。蒼や琥珀とは違って素直でいい子のようだ。
「今日は白波と一緒じゃないんだな?」
「今日は家で作ってもらったらしいので教室で待ってると思います」
「ああ、そういうこと」
だから一人で図書室にいたらしい。
「あの、」
小豆がおずおずと視線を向けてくる。
「琥珀とはどういう関係ですか?」
「前に白波が説明してなかったっけ?」
「あんなの嘘って丸分かりですよ」
下足室でのことを思い出す。
確かに琥珀のごまかし方は酷いものだった。
「あれで騙させるほど馬鹿ではないので。それに琥珀は嘘をつくときは決まって『そうだ』って言いますから」
「嘘をつく時の癖がひどすぎるだろ」
「そういう子ですから。まあ、そこも琥珀らしいですけど」
全てを把握し尽くしているような口調で簡単に言いまとめる。
「それで、美空さんと琥珀とはどういった関係なんですか?」
「どういった、ねえ……」
絵馬しか認識できない体になってしまった。
なんて馬鹿げたことは流石に言えない。
とりあえず、はぐらかしたまま、
「ここで話すのもあれだし、あっち行こうぜ」
と校舎へ戻っていく提案をした。小豆も反対意見はないらしく、素直に付いてくる。
「逆に聞くけどさ、どうして気になるんだ?」
「どうして、ですか?」
「もう高校生だろ。友達が誰と話していようが、気にする年齢じゃないと思うけどな」
友人が知らないところで誰かと仲良くなっていることは高校生だとよくある話だ。わざわざ「新しい友達できたんだよね」と報告するのも馬鹿馬鹿しい。
ただ怪訝とする要素があるようだった。
「琥珀、普段は男子と喋らないので。異性と……それも二年生の先輩と話しているのは気になります」
「そんなに?」
「そんなにです」
「へえ、そりゃ友達思いだな」
純粋な気持ちで心配しているようだ。
「でも本当に何もないぞ。ただ知り合って、普通に話していただけ」
「……」
「嘘じゃないんだけどな?」
小豆の瞳が冷えている。そんなわけがない。
表情がそう断定していた。
これは絵馬がなんと誤魔化そうが納得してくれそうにない。
「別に言ってもいいけど、変な話になるぞ?」
「大丈夫です。言ってみてください」
「あいつ、男子が認識できてないんだよ」
「……は?」
顔を歪めた小豆に、絵馬は説明していく。
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