バベルの塔
岸亜里沙
バベルの塔
オリオン座第9惑星リアルス
グアダンダとは先住民族の言葉で、止まぬ風を意味し、人々が観測を始めてから、一瞬たりともその風が止まった事はない。
エメラルドグリーンの細かな
そのグアダンダの砂漠の片隅に巨大な塔が発見されたのは、偶然だった。探検家のパタクが、グアダンダの奥地を目指していた際に、砂煙から逃れるように進むと、そこに見たこともない塔が建っていたのだ。
先住民族の長老から、
そして直ちに政府の調査団が結成されると、グアダンダの塔の調査の為に派遣されたのだが、調査を進める内に様々な謎に直面する。
まず、この塔には入り口が無い。
そして一番の謎が、日を追う
調査団員の考古学者ミハリは、塔そのものが生命体なのではないかと考えたが、生物学者ユシアに否定される。
「自ら増殖し、成長する金属の生物など、存在しない」
逆にユシアは、この塔が異星人によって建造された物ではないかと考えたが、これは宇宙物理学者ケーアによって否定された。
「異星人の存在は証明されておらず、説明がつかないというだけで、それらを異星人の叡知だと論ずるのは、いかがなものか」
調査団のメンバーは、様々な議論を交わしたが、結局この塔が高くなる原因も分からないまま。その間も、塔は高くなっている。
そんな折、地質学者のリュダバクルナがひとつの可能性を示す。
「塔が高くなっているのではなく、地面の砂が風で飛ばされ、地中に埋まっている部分が露出してきたから、結果的に塔が高くなったように感じるのではないか」
一番現実的な説ではあったが、確証は得られず、調査団は何日も塔を眺めていた。
だが数日が過ぎた頃、リュダバクルナが恐怖に駆られたように、
「早く、この砂漠から脱出するんだ。そうしないと・・・」
「なんだ?一体どうしたっていうんだ?」
ユシアがリュダバクルナに
「これは文明都市の呪いだ・・・」
「呪いだって?君がそんな迷信を信じるのかい?」
今度はケーアがリュダバクルナに
「このままでは、私たちは消滅するぞ」
「消滅?」
ミハリが首を
リュダバクルナの言葉を、まだ誰も理解出来ないようだ。
「早く荷物を
「な、何?縮小化?そんな馬鹿な事あるか。俺の体は何も異常はないぞ?」
ユシアが自分の体を叩きながら言う。
「なら、これを見てくれ」
そう言って砂漠の砂を手に取り、皆に見せる。
「この砂がどうしたんだ?」
ケーアが言った。
「気づかないのか?あの塔だけではなく、砂粒のサイズも大きくなっているんだ。つまりこれは、我々のサイズが小さくなってきている証拠だ。この何も無い砂漠において、大きさを示す対象物が、あの塔しかなかったが為に、私たちは自分たちが小さくなっているのに気づかず、勝手に塔が大きくなっていると信じてしまったようだ」
リュダバクルナの言葉に、全員がエメラルドグリーンの砂を凝視した。
「待ってくれ。対象物が塔しかないと言ったが、自分たちが寝泊まりをしている、この耐圧テントは?これも小さくなっているっていうのか?」
ユシアが言うと、リュダバクルナは先住民族の長老から預かった古文書をポケットから取り出す。
「この古文書を昨夜、読んでいたんだ。そうしたら、ある一節にこう書かれていた。古代の文明が
リュダバクルナの主張に、全員が無言で同意しグアダンダを離れる準備を始めた。
到着以降、何も発見や成果が無い為、調査を進める理由も無かった。
グアダンダの砂漠を離れた調査団は、無事に異空間圧力の影響下から脱出し、元の大きさへと戻ったようだ。
そして、調査をした証しとして、キャンプをした地点に、リアルス政府の国旗を置いてきたそうだが、その旗が今どうなっているか、誰も知る事はないのだ・・・。
バベルの塔 岸亜里沙 @kishiarisa
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