6-2

「いや、してない。あれはネタとしての取材に近い何かだし」


 天はぶつぶつと呟く。そんな曖昧な答えでもそれ以上リッカも聞くことはなく、3人で雑談を楽しんだ。そんな時だ、教室の扉のところに天の見知った顔が目に入る。


「安岐じゃん。どしたー?」


「顧問から部活のスケジュール表きたので配ってるんですよ」


「部活の時でもよかったのに。ありがとな」


「いえ」


 葵がいた。部活時間以外でみる、貴重な制服姿の葵だ。天は穴が開くほどガン見して、葵とクラスメイトのやり取りを観察する。そういえば、彼も剣道部だったと今思い出した。


「安岐ちゃんじゃーん。やほー」


「これあげるー飴」


 クラスの陽キャ女子が葵に声をかけて自然な動きで絡み出した。天はそれを目を開いて見てしまう。


「おいおい、俺には?」


「ないけど?安岐ちゃんは剣道部の部長さんで頑張ってるし、お疲れ様的な労いの飴だから」


「そそ、あんたも安岐ちゃんみたいに紳士的になればファンがついて飴でもハートでも贈られるんじゃない?」



「ハートはうける」


「おまえらバカにすんなよな。俺もそこそこ試合ではきゃーきゃー言われるし」


「安岐ちゃんの比じゃないでしょ」


 どっと笑いが起きる。葵の顔も微笑み、嫌そうではない。そうか、自分ばかりが彼と接点があるなと思っていたが、そんなことはなかったのだと天は自覚する。今の時間も、2人だけの時間も何気ない日常の1ページに過ぎないのだろう。


 天はなんだか、胸がちくりとした。これは……書けそう!


 天は食事途中でもスマホのメモに文を打ち込む。その姿を見てリッカとエマは慣れた様子で会話をし出した。


「それにしても、人気だねー。安岐葵。敬語で礼儀正しく文武両道を絵に描いたようようなスペックの持ち主だし」


「去年、一年生なのに部長になったんだよね?確か」

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