3-2

 そんな天の心情など露知らず、葵はそういえばと話題を変える。


「文芸部は土日は集まりとかあるんですか?」


「ないよ。個人主義な集まりだし……そっか、安岐くんは土日も練習?」


「はい、いつもはそうですね。今週末は春季大会もありますし」


「そっか……大変だね」


 試合か、見てみたい気もするし……わざわざ休みまで追いかけて見に行ったらそれこそストーカーだし。ネタのためには見に行きたい、しかし土日は小説を書きたい。でも……と少し頭を悩ませる天の顔を横目に葵は言葉を続ける。


「見に来ますか?」


「え!?」


 そんな突然のお誘いに天は思わず声を上げる。これは思ってもいない喜ばしいお誘いなのだが、天は何故誘われたのかとそっちの方が気になった。わざわざ知り合って間もない人間を大会に誘うって?あれなのか?よほど実力があるから俺つえええってのを披露したいのか?と失礼なことが頭によぎり、天は葵の顔色を伺う。しかし彼はいつもと変わらない穏やかな笑みを向けていた。


「赤音さんなら、見に来てもらっても構いませんよ」


「あ……そう?」


「はい。俺強いんで、かっこいいところ見せます」


 はいきた!ヒーローが言いそうなお決まりのセリフ!と心の中でツッコミを入れる天だが、その申し出に少し心が揺らぐ。しかし土日は小説を書く絶好のチャンスタイムと考えていたのですぐに答えは出ない。


 そんな天を見てか、葵が声をかける。


「無理にとは言っていませんし、気が向いたらぜひどうぞ。ああ、場所とかわかりませんよね?連絡先、交換します?」


 そう言ってスマホを取り出した葵に天は慌ててそれを制止する。


「だ!大丈夫だから!」


「でも……」


「大丈夫!ありとあらゆる方法で場所なんてすぐ特定できるし!」

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