page3:雨の日の通学

3-1

 翌朝、電車内。今日は雨のため電車に乗る人がいつもより多い気がするなとそらは思いつつ、扉のところに寄りかかりつつ骨伝導イヤホンをつけて音楽を聴いていた。こちらのドアは天が降りる駅まで開かない。ポジション的にはベスト。

 

 電車が次の駅に到着すると乗ってくる人の多さにうへぇと残念な顔をしつつ、押されるようにして天はドアの方を向いて立つことになった。リュックを前に抱えつつだから、掴まるところがない。今変な揺れ方したら、確実によろけるなと天は思った。


 もちろんそれはフラグというもので、電車が駅を出発するとその反動で天はふらつく。


 しかし、そんな天の肩を後ろから支える手があった。驚いて振り返れば葵がそこにいて、天は思わず「あ」と声を出してしまった。


「おはようございます、赤音さん」


「お、はよ……安岐くん……」


 朝からまさかの出会いに動揺する天の心臓はドキドキしっぱなしだ。しかしそれを悟られまいと平静を装うが声が若干上擦った気がする。

 そんな天の心情を知らない葵はいつもの爽やかな笑顔で挨拶を交わすと天の肩から手を離した。


「ありがとう、その……また倒れるところだったよ」


「いえ。ちょうど赤音さんの姿が見えたので、声をかけようとそばにきたタイミングだったのでよかったです」


 返し方もスマート。これはネタになるなとセリフをそのまま覚えようと反復しつつ、そういえば何故彼がここにいるのかと天は疑問に思った。


「安岐くん、今日は電車なんだね」


「雨ですからね、さすがにチャリ通はできませんよ。今日は朝練もないのでゆっくりです」


「なるほど、じゃあいつもは朝も早いんだ?」


 天がそう聞くと葵は少し笑ってから「そうですね」と答える。その仕草にキュンとする天だが、これ以上話すとボロが出そうなので口を噤む。いや!ネタの為には情報収集が必須なのに、でも無理!

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