会話に伏字が多すぎるよ
お日柄もよろしいようで~という声が聞こえてきそうなぐらいの晴天、理工技大学の大学祭。
屋外に設置されたメインステージで
「あの、僕、平川太陽と言います。推薦で理工技大学進学を狙っています」
「ああ、名前は聞いているよ。俺は
平川くん、なにやら不思議そうな顔をしている。
「『ふたみ』ってどんな字を書くんですか?」
「『二つの海』だよ」
「あの、もしかして、シーピーオーシャンって、
「あ、ま、まあ、そうだけど」
「平川くん、どういうこと?」
思わず、訊いてしまった。「シーピーオーシャン」、あたしが「
「『シー』は『海』、そして『ピー』は『パシフィック』、それに『オーシャン』、『パシフィックオーシャン』で太平洋っていう意味です。
つまり、二つの海、
「「なるほど」」
「
平川くん、なんだか興奮している。
「スイートって……あ、今はポストって言うんだっけ。あれ、実は位置情報が付いててさ、区とか市ぐらいまでなら三百個所ぐらいのレベルで特定できるんだよ。それで、マクロを使って――」
以下、
「
あたしは、立ち位置挽回狙いで
「
♪ ♪ ♪
あたしたちは模擬店が並んでいる道を歩き、チョコバナナを食べたりタコセンを食べたりした。
ふと、ぬいぐるみが置いてあるけど、他には何もない模擬店が目に入った。
「ねえ、
「子どもは関わっちゃダメなやつ」
「あたし、子どもじゃないです。まだ十七歳ですけど」
「
「そうなの?おもしろそう。ねえ、
「俺、あまり気乗りしないかな」
「おーい、
「え?」
ああ、びっくりした。模擬店にいる学生さん、いきなり大きな声を出すんだもの。でも、どうして名前を知っているんだろう?
「
「私も。ほら、
「わ、わかったよ」
受付担当だからなのかな、前髪が長くて目元は見えないけど、なんとなく綺麗そうな女の人。きっと客引きのためだ。
あれ? 受付さん、
「はい、じゃあ、一回、五百円。このグローブを付けてもらって、三十秒の間に俺の顔を殴ることができたら、好きなぬいぐるみを持っていっていいですよ」
視界の中で何かが動き、あたしは模擬店の奥を見た。一人、いなくなったような。
「じゃあ、僕から行きますね」
「グローブをどうぞ。あ、上着は脱いでください」
「はい」
平川君が薄手のジャンバーを脱ぐと、受付さんにグローブを付けてもらった。ボクシングで使っているようなやつ。
なんとなく、平川君の顔が赤くなった気がする。男の子だな、やっぱり。
「太陽、がんばって!」
「はい」
「じゃあ、用意、スタート!」
隣にいた女子大生が声をかけた。手にはストップウォッチを握っている。
殴られ屋さんの動きはなめらか、というか、くるくる回って、何度もパンチを繰り出す平川君は、完全に
「はい、ストップ」
「ぜ、全然、当たりません」
平川君は、肩を大きく上下させてゼイゼイと呼吸をしながら話した。
「じゃあ、次は私がやります」
「それでは、用意、スタート!」
平川君の時と同じように、
バシッ!
「あ、当たったわ。
いや、今のは絶対にわざと当たった。殴られ屋さん、一瞬、顔が笑っていたもん。
「いや~、いいパンチだね。お兄さん、当てられちゃったよ」
「あんた、ほんと、女の子には甘いのね」
「サービスサービスぅ」
「キモッ」
「次は、金髪のお嬢さん、やる?」
「あ、あたしはいいです。でも、ウサギのぬいぐるみ、欲しいな」
平川君と
「お嬢さん、
「どういうことですか?」
「空手道部の伝統ともいえる、この殴られ屋、
「
「そうよ。あ、時々、女子とか子どもには殴らせているけど。でもね……」
受付さんは、歯を食いしばり、こぶしを握り締めている。全身に力が入っているのかな、腕が震えているのがわかる。
あたしは
「
「やらなくちゃダメですか?」
「おう、やってくれ」
「俺も脱がなくちゃダメですか?」
「一応な」
なんか、
受付さんが
「
「いつものことじゃん」
いつものことって……。『なかの』って名字なのかな、名前なのかな。それより何であんなに近いの?
「いい? 用意、スタート」
バシッ!
え?一瞬だった。どうして?
「い、痛たた……クソ、もう一回だ!」
「
「は、はい、わかりました」
あたしは、狙っていたウサギのぬいぐるみを手にした。
「
「
「そう言わずに
「おう、来てくれ」
「わかったよ。
「はい」
あたしは、
「
「いいよ」
「行くよ、用意、スタート!」
バシッ!
「
やっぱり一瞬で終わった。
「おい、
「いいですよ」
「じゃあ気を取り直して。用意、スタート!」
殴られ屋さん、目が超真剣、すごい勢いで頭を振っている。あんなの当たるのかな。
バシッ!
当たった……
「僕の分でいいんですよね?」
「はい、お好きなぬいぐるみを選んでくださいね」
平川君はドラゴンのぬいぐるみを持ってきた。
「来年は、辰年ですから。ゲン担ぎです」
「
「ちょっと待ちなよ」
模擬店の後ろから女の人の声が聞こえた。
「あ」
「おい、猿、武道場まで来い」
猿?
「今日は連れがいるので、ちょっと……」
「いーや、来てもらう。来ないと、そこのお友だちに、あることあること、全部、話すぞ」
「……わかりました」
あることあること? 全部、本当のこと? あたしたちは、ポニテ女子さんの後ろを歩き始めた。
「あの人、副将、あ、副部長で
「え、そうなんですか?」
話しかけてくれたのは、さっき模擬店にいた受付さんだ。
「あの、模擬店、いいんですか?」
「うん、大丈夫。
あたしには訊きたいことがいっぱいある。
「あなたは
先に質問されてしまった……。
「い、いえ、まだそういう関係では……」
「『まだ』、ね?」
「はい」
どうしてみんな、そこを強調するの?
「
「
「さあ、知らないけど、浮いた話は聞かないね」
「そうですか」
そうこう話しているうちに武道場に到着。ちょっと汗っぽいというか、独特のにおいがする。
でも窓から光が入って明るい。床には正方形の分厚いヨガマットみたいなものが敷き詰められている。
「ひっ」
「え?」
「ちょっと」
「どういうこと?」
いつの間にか、後ろにたくさんの人が歩いていて、武道場に入ってきた。何が起こるんだろう?
「大丈夫、例年のことだから」
例年? よけいにわからないよ。
「
「そうなんですか?」
「特に空手の方は地方の大会だけど、
「それってどれくらいすごいんですか?」
「一般の部って、大学生の主将クラスでも入賞は難しい。それを高校生が表彰台……ありえない」
「え、あ、はい」
「しかも、準優勝ってのが、寸止め――あ、相手に当てないよう、直前で止めるってことなんだけど、
「あの」
「しかも、拳サポーターしていたのに、相手は倒れて悶絶していたのよ」
「そんな」
「つまり、あと三センチ手前で止めていたら、
「そうだったんですか」
「ちなみに優勝者は、副将のお兄さん」
「え?」
「それで、空手道部へ体験入部まではしたんだけど、入部しなかったの」
「どうしてですか?」
「私のために当時の主将を倒しちゃったの。あ、始まるよ」
私のために? 私のためにって言った?
おどおどして視線を武道場中央に移すと、二人は既に中央に立っていた。ポニテ女子さんは、
二人とも防具は付けていない。グローブとか付けないのかな。
「猿、よくぞここまで来た」
「いや、
やっぱり元カノだからなのかな、今、呼び捨てで呼んだ。稽古着には「高塚春日」と書いてあるから、名前の方。
「さすが、いい度胸だ。私の『
「奪ったわけではないです」
え? 清水さん、あの人の『
「
「フルコンタクトで首から上は無し。拳サポーターだけ付ける」
「わかりました」
どういうこと?表情に出ちゃったのかな。受付さんがこっちを見た。
「あのね、顔や頭は攻撃しちゃダメだけど、身体は殴ったり蹴ったりしてもいいってことよ」
「そうなんですか?」
「
それに受付さん、どうしてそんなに詳しいの?もしかして、受付さんも……なんてことないよね?
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あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
「最後の通学路編」に入ってから、どうも伏字が多くてすいません。ちょっと、作品にメリハリをつけたくて、伏字多めです。
「殴られ屋」は、過去に実在したそうです。それを殴るコツですが、それについては、また、別話にて紹介したいと思います。
おもしろいなって思っていただけたら、★で応援してくださると、転がって喜びます。
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それではまた!
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