せっかくのデートだから
翌週の火曜日、アップル楽器のスタジオで
ギターと一緒にマルチエフェクターも買ったとのことで、マルチエフェクターをチューナーモードに切り替えるのに戸惑ってしまった。
あとは学校の話とか……
「
フーグルの方も、消してはもらえませんでしたが、星の数はもどりました」
「そう、それは良かったね。絶対にいたずらだよ」
「はい、そう思います。だって、お母さんの作る食事、とても美味しいんです。あの、今週末、よかったら来てもらえませんか?」
「え? う、うん、わかった。土日、どっちか決めたら連絡するね」
「やったー! うれしいです」
しまった、半引きこもりなのに、約束してしまった。そして、いつものように大通り図書館に向かった。バンド練習の時より一時間早いので、
あたしは三階に上がり、教科書とノートを広げた。一応、受験生だしね。周りに座っている高校生たちも同じ。
八時十五分、いつものように大通り図書館のテラスで
「あっ」
あたしは反射的にスカートを押さえた。ここはビル風というのか、時折、強い風が吹く。
スカートがめくれ上がるほど強い風じゃないしスパッツもはいているけど、ついつい押さえてしまう。
「お待たせ」
「さあ、種明かしをしてもらおうか?
あたしは、わざと推理小説風のセリフで話してみた。
「うむ、よかろう、
――と、ノリに乗ってくれて説明をしてくれたけど、ほとんど意味が分からなかった。もう、平川くんと同じレベルの世界。
「
「『いもうとデスクトップ』?」
「『リモートデスクトップ』のことだね。俺は、『チョロメ』だよ」
「さらに疑問は深まるばかり。
「あの、
「土曜日なら。日曜日は別のバイトを入れているんだ」
「じゃあ、土曜日、
「ああ、口コミの。いいよ」
やった!
「大丈夫? 躓いた?」
「え、あ、は、はい、あの、ちょっとこう、躓いたというか、はい」
それにしても
はっ!今、恐ろしいことに気が付いてしまった。訊こうかどうしようか……ううん、やめておこう。
今の距離感でいいから。でも、一緒に食事に行ってくれるんだから、大丈夫だよね。
♪ ♪ ♪
その日の夜、
なんだか、自分でもはっきりわかるぐらい浮かれて暴走中って感じで、洋服選び、そして下着選び、アクセサリーその他もろもろの組み合わせを試している。
ううん、下着は関係ないよね。でも、スカートでスパッツ無しの予定だから、万が一、見えちゃったときのことも考慮して……って、あたし、何を考えているんだろう?
「
「ママ、これ、おかしくない?」
「ははぁん、もしかしてデート?」
「ち、違います!」
ママはニヤニヤしながらあたしの頭からつま先まで、ゆっくりと視線を這わせると部屋を出ていった。どうしたんだろう?
「
「うん、どうしたの?」
「これを持っていきなさい」
ママは、あたしの手の上に「恋愛成就」と書かれたお守りを乗せた。
「これ、どこの神社?」
「違うの。これ、開けれるようになっていて、中には『
「え?」
あたしは、全身の筋肉がつま先から順番に硬直していくのを感じた。
「渡せる日が早く来るよう、祈っていたのよ。ようやくなのね。ママ、うれしいわ」
「あの、まだ付き合ってないから」
「『まだ』ということは、これからその可能性もあるってことね」
「え、えと、まあ、そうかも」
うん、正直になれ、自分。
「
「ママ、『
「あら、ずっと昔から知っているわよ。日本語を勉強するために読んだ官能小説に、よく出てきたの」
「そんな本で日本語の勉強をしてたの?」
「そうよ。だって、興味のあるジャンルの方が頭に入るから」
「うぅ、わかりました」
まあ、確かにそれは正しいかも。え?でも、じゃあ、もっとエッチな言葉とか知っていたりするのかな。
「ちなみに、日本のエロ漫画やエロアニメのこと、海外では総じて『HENTAI』と言うのよ」
「なんとなく不名誉な気がする……」
結局、洋服選びは金曜日の夜まで続き、受験勉強にも時間は割り当てたものの、あまり集中できなかった。
♪ ♪ ♪
あ、
「
「まだ五分前だよ。
「電車の時間の関係で」
見てる。
「帽子、そろそろ返してもらっていいかな」
あれ、そっちですか。アコースティックライブの前に
「これ、素敵な帽子です」
「じゃあ、新しい帽子を買ってプレゼントするよ」
「そうじゃなくて、この帽子が素敵なんです」
「じゃあ、あげるよ、それ」
やった!
「ありがとうございます」
「姫毛って言うのかな、それ、よく似合っているよ」
「えへへ」
そう、帽子の中はポニテにして後ろの部分は隠している。
しかも、全部、後ろで縛るんじゃなくて、アニメキャラのように耳の前にも姫毛風に髪の毛を残して。かなり面倒だけど、小顔効果抜群。
「あの、お礼に、同じ帽子、プレゼントしてもいいですか?」
「あ、そんな高校生からだなんて。なんか申し訳ないよ」
「大丈夫です。それに……」
「それに?」
おそろいって言いそうになってしまった。危ない危ない。ドン引きされるところだった。
「何でも、何でもないです。あの、
「十二月二十二日だよ。いつもクリスマスパーティーと一緒にされて、お得感が無いんだ」
「うふふ、そうですか。あたしも三月三日なので、ひな祭りと一緒でした」
駅からいつも通学に使っている電車に乗り、やっぱりいつも通学に使っている駅で降りて徒歩五分ぐらい。住宅街の中に
少し早めに着いたので、お客さんはまだ数組しかいない。
「いらっしゃいませ。あら、
「
「ううん、まだ、その、そういう関係じゃなくて……」
「『まだ』なんですね?」
ああ、中学二年生の少女にも言われてしまった。
うーん、本当に動じない人。余裕のある表情に、お腹の中で熱いものがうごめく気がする。
「あの、
「大丈夫です」
あたしたちは、それぞれ違うメニューを選んだ。もちろん、これは作戦。
ママからの助言で、違うメニューを注文したら試食を理由におかずを交換し、親密度を上げるっていう。
意外だったのが、
「彼氏さん、ご飯、たくさん食べれるのかしら?」
「四合ぐらいならいけます」
「え、本当に? じゃあ、このお茶碗で十杯食べてくれたら、次回、彼氏さんだけで来ても無料にします」
「楽勝です、助かります」
そんなわけで、目の前で一切の会話もなく、
あたしが普通に食べている間に、これ見よがしにお茶碗がどんどん積まれていく。他のお客さんも見守っている。
「ふう、もう、お腹いっぱいです。ごちそうさま」
あたしが食べ終わって少ししてから、
お茶碗を数えると、なんと、十二杯……す、すごい……開いた口が閉じないとはまさしくこのこと。拍手が聞こえる。なんだか恥ずかしい。
「いったい、これだけの量、どこに入っていくのかしら。あら、たしかに胃のあたりだけは膨らんでいるわ。それにしても『痩せの大食い』って本当にいるのね。初めてよ」
いやっ、あたしだって
♪ ♪ ♪
十月七日、土曜日。今日は理工技大学の大学祭。なぜかあたしの隣には
あたしたちは、バスを降りて理工技大学の大学祭会場に向かって歩いているところ。
でも、なぜに
会場はとても目立つ場所で、各部が順番に使っているとても華やかステージ。あ、
ステージ脇に
軽音部の演奏が始まり、三曲目、
キーは違うけど、
軽音部の演奏は三曲で終わり、次は何やら自由表現のダンスっぽい感じの演目。何気に眺めているうちに、
「来てくれてありがとう」
「
でもね、どうしてみんな、そんな簡単に
特に
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あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
ワタクシ、高校生の時は本当に四合、ご飯を食べました。体重は五十七キロだったと記憶しています。
近所に、「○○食べたら無料」というお店が無くて、悲しい思いをしました。
今は、さすがにそこまでは食べられませんが……それでも、そうですね、お腹いっぱい食べれば、お茶碗七杯ぐらいは行けます。
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それではまた!
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