第30話 きみと一緒に。 side光



 まだアルコールの抜けきらない頭でタクシーに乗り込み、行き先を告げて光はスマホを開いた。

 あのあともアラタに根掘り葉掘り色々なことを聞かれて結局帰りはもうすぐ午前様だ。


 咲太郎はまだ勉強をしているだろうか。


 迷いながらも『ぬいぐるみ可愛いね。どうしたの?』とメッセージを送る。もしかして寝てるかもと思ったがすぐに既読がついて『妹に付き合わされた店に売ってた』と返ってきた。

 光のメッセージアプリのアイコンが実家で飼っている猫なんだという話はしたことがあるが、咲太郎がそれを覚えていてくれた事がこんなにも嬉しい。


 咲太郎は頻繁にメッセージを送っては来ないが、たまに来るメッセージやスタンプは意外と可愛らしいものが多くて、何気なく理由を聞いたら「妹に『お兄のメッセージ業務連絡みたい!』って言われて……」といくつかスタンプを入れられたそうで。

 最近よく押されるファンシーな黒猫のスタンプが、光のアイコンに寄せた物ではないのかなんて……ちょっと期待してしまう。


「……そんなわけ、ないよなぁ……」


 この短期間で咲太郎との距離はぐっと縮まって、咲太郎が高校に入学してからの二年半、同じ校内に在籍していたというのに全く関わりがなかったのが嘘みたいに一緒にいることが自然になっている。

 咲太郎もきっと、光のことは好きだと思ってくれているだろう。……それは、恋愛感情というものではないだろうけれど。

 それでも、時折感じる咲太郎の視線や偶然触れる彼の体温に、自分と同じ熱があるような気がしてしまうのはやはり自分が彼をそういう目で見ているせいなのだろうか。


 自分が初めて付き合った人は女性で、普通に女の子が性の対象だと思っていたしゲイと言うわけではない。

 ただ、光は小さい時からオミや藤哉と交流があり、光が知っている限り初めて会った時から彼らはそういう関係だった。芸能界でも時折そういう人もいたから、恋愛というものに性別の垣根はないという認識が他の人よりもあったのは間違いない。


 多様性が叫ばれる今、その辺りの偏見は昔に比べたらなくなってきているだろう。


 けれど、それが当たり前というわけではない。

 普通は受け入れられるものではないし、生理的に無理だという人も多いだろう。

 咲太郎は決して光を拒絶したりはしないだろうけれど、気まずくさせてしまうのは目に見えている。


 それならばいっそ。いっそこのまま、友だちのままでいられれば。



 そう思っていた。――文化祭の日までは。



 咲太郎の自分を見る目が、自分と同じ熱を持っていると理解ったあの日。

 触れた指先から咲太郎の気持ちが伝わった。


 言葉にしなくても、伝わる気持ちがあるのだと知った。


 想いが通じた階段の踊り場で、言葉にならない想いを繋いだ手に贈る。

 顔を染めて俯いた咲太郎がたまらなく愛しかった。


 あのあとすぐに仕事の時間になって、まともな言葉はまだ交わせていないけれど、これから始まる咲太郎との新しい日々を思うとなんとも言えない幸福感が湧き上がってくる。


「……好きだよ、咲太郎」


 次に会った時、顔を見てそう言ったら彼はどんな反応をするだろう?


 高校だけはしっかり行っておけと言った三番目の兄の言葉がすごく染みる。光はそう言ってくれた兄に心から感謝したのだった。



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