第26話 きみと一緒に。①



 九月。

 暦上は秋の括りではあるが、少しも和らぐことのない日差しが照りつけていてまだ秋は感じられない。

 校内はエアコンが完備されているので暑くはないが、かかり過ぎているエアコンと外の温度差に悩まされ着るものにちょっと困ったりする。ただ、光の席は一番うしろの窓側であるため、日差しとエアコンの温度差を足して割って丁度よく、今日もお昼寝日和だ。


「寝るな、馬鹿!」


 ボコ、とノートで頭を叩かれた。


「痛い!」と顔を上げると怒った咲太郎と苦笑いの数人のクラスメイトの顔。

 寝ぼけた頭を働かせながら、光は自分が班活動の真っ最中であったことを思い出した。




「えーと、じゃあ話の続きなんだけど……。おれらの班はお化け班だから、まずはどんな役を作るかなんだけど」


 光は眠い頭でリーダーの男子生徒が話すのをぼーっと眺めた。


 十月の頭、向陽台高校では学園祭と称して、体育祭、音楽祭、文化祭と三年間の間に順に毎年一つづつ行われる。ちなみに去年は音楽祭だったので今年は文化祭だ。二年生までは部活動で固まって何かをやる者もいるが、部活動を引退した者の多い三年生はクラス単位で出し物をする事が多く、咲太郎と光のクラスはお化け屋敷をやろうということになっていた。

 クラスを何班かに分け係を分担する事になり、昼休みの後の学活の話し合いに光はあくびを噛み殺す。最近は以前に比べて真面目に授業を受けるようになったとはいえ、必須単位でない学級活動に意識を集中させるのは中々難しい。あふ、と三度目のあくびが出たところで「光」と咲太郎に睨まれた。


「ちゃんと真面目に話を聞けよ」


 怒った顔もちょっと可愛いなと思ったことは飲み込んで、光は唇を尖らせる。


「……解ってるけど……オレ、多分なんの役にも立たないし話し合いに参加してもあんまり意味なくない?」


 光の言葉に皆が苦笑いする。「一ノ瀬くん忙しいもんねぇ……」と女子が笑った。

 ただ、咲太郎はそんな光に静かな声で物申した。


「そうかも知れないけど。お前が何にもできない分、代わりにやってくれる人がいるんだぞ。お前が忙しいのは皆のせいじゃないんだから、できないならちゃんとお願いするべきだし、オレは知らないじゃだめだろ」


 咲太郎の言葉に皆はびっくりして、光は目を見開いて固まった。

 ホラ、と促されて光が口を開く。


「……そ、れはそうだよね。あー……ごめん。オレ、役に立たないかもしれないけど、やれることはやるから何でも言って」


 そう言って頭を下げた光に皆が顔を見合わせた。


「ええっと……、一ノ瀬は文化祭当日は出られるのかな?」


 リーダーの男子生徒が予定を光に聞く。光はスマホを立ち上げてスケジュールを確認した。


「その日は今のところ仕事が十七時からだから、一応大丈夫だとは思う」


 それまでの準備とかはいない日もあると思うけれど。と言うと、「今までの学園祭の時はどうしてたの?」と他の女子にも尋ねられる。


「え? ああ、体育祭はちょっと事務所からストップかかってるから出てないし、他は仕事が入ってたりして実際一回も参加したことはないんだよね」


 そもそも今まで皆学園祭の準備に光を頭数に入れようとはしていなかった。なので光自身も自分には関係ない話だという意識になってしまっていたのだ。

 同じ班のクラスメイトたちは顔を見合わせた。


「……じゃあ、今年は最後だろうし、できる限り一緒に参加できたらいいよね」

「一ノ瀬くん、成宮くんと仲が良いから、係も二人セットでやったらいいんじゃない?」

「ああ、それいいな! もし一ノ瀬が緊急で休んでも成宮がいてくれたら大丈夫だし」

「成宮の負担にならなければの話だけどなー」


 どう? と話を振られて光は目を瞬かせた。チラッととなりの咲太郎を見たら、咲太郎も同じように少しびっくりした顔をしている。

 それでも、光と目が合うとにこと小さく笑った。


「……有難う。皆に迷惑かけると思うけど、オレも参加させて」


 そう言って笑った光に、皆も「もちろん!」と返してくれた。


【つづく】


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