第24話 きみとご褒美。④
思いがけず咲太郎の出生を知ったあと、二人は普通の友人の様に好きな本の話や音楽の話なんかをした。
光の三番目の兄は、有名な作詞作曲家らしく、咲太郎がスマホに入れて普段聴いている音楽の何曲かも光の兄の作品だった。
「このkooってのが兄貴。本名は
一番上のお兄さんとはなんと一回り歳が違うのだとか。
「二年ほど前まではオレも実家で住んでたんだけど、一番上の兄貴もデザイナーで三番目は作詞家だろ? 家バレしちゃってるからしょっちゅうマスコミにはりこまれちゃってさ」
実家では両親と一番上の兄家族が住んでいて兄の子どももいる為、成人したのを期に家を出たのだと言う。
「親が不動産の仕事してるからセキュリティの高いマンション探してもらって、今は大分楽になったよ」
人気があるのも楽では無いのだな、と咲太郎は光を気の毒に思った。
そのあと模試を受けに行っていた咲太郎の妹が帰って来てからは大騒ぎだった。
咲太郎の中学に上がったばかりの妹は、家の中に本物の二階堂ヒカルがいることに大興奮し、ヒカルが移動する事にうしろを着いてきて、トイレ前まで行くものだから咲太郎が「いい加減にしろ!」とキレて兄の顔を覗かせていたのが光には新鮮だった。
光は男兄弟しかいないから家に女の子がいる事が新鮮で、咲太郎の妹を「実家の姪っ子みたいで可愛い」と意外にも付きまとわられても終始ニコニコとしていた。
……ちなみに姪っ子はまだ七つらしい。
夕方に帰ろうとした光を母や妹が夕食に誘い、なんと光は夕食までしっかり食べて帰る事となった。
濡れた服は、帰る頃にはすっかり乾いていた。
光をびしょ濡れにした雨は、本当にあの時だけだったらしい。
帰るために咲太郎と並んでマンションを出た頃には嘘のように空は晴れていた。日中はあんなに暑かったのに、雨が降ったせいか少し気温は下がり、心持ち涼しい風が吹いている。
駅までの道のりを、二人はゆっくりとならんで歩く。
「……ごめんな、引き止めちゃって」
あんま騒ぐなって妹にも言っとく。と申し訳無さそうにする咲太郎に光は首を振った。
「全然! 凄く楽しかった! 咲太郎ん家のご家族、皆いい人だね」
お父さんにも会ってみたかったなあと光は機嫌よく笑った。
「……凄くいいご褒美になったよ。咲、本当に色々有難う」
キャップとマスクの間から、光が目を細める。
駅までは、咲太郎のマンションから五分程しかない。あっという間に着いてしまう道のりに、咲太郎はまだ着くな、まだ着くなと心の中で唱えてしまう。
咲太郎の願いも虚しく、視線の先に駅の入口が見えてきた。
無意識に歩く速度が遅くなって、光と少し距離が空く。咲太郎が少し遅れた事に気がついた光が振り返って、「咲?」と名前を呼んだ。
そして、
「あ、花火!」と声を上げた。
振り返って見上げた先のビルの間に夜の花が開く。
少し遅れて鳴る音を聞きながら、次々と上がる花火を暫く二人で見上げた。
いつの間にかとなりに来ていた光の小指が、咲太郎の小指にトン、と触れた。
「……今年の夏、咲のおかげで最高にいい夏だよ」
そう言って花火を眺める光の横顔に、咲太郎ははっきりと光が好きだ、と思った。
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