幕間 部活後の牛乳は美味しい。
「おぉ……」
部活の帰り、いつものショッピングビルの前を通ったら、よく知っている友人がデカデカと壁からこちらを見ていた。
先日同じ場所を通った時は、確かファッションブランドの広告だったと思う。と言うことは彼の写真に変わったのは昨日から今日か。
紺野が知っている一ノ瀬光と言う人物は成宮咲太郎にまとわりついてご褒美を待っている大型犬、と言う印象だ。
今までも時々校内で光を見かけた事はあったが、光は学校にいても一人でいるかいつも寝ているイメージで、向陽台の眠り姫ならぬ眠り王子だなんて影で言われていたりした。
三年生になって同じクラスになり、噂通りの美形がいるな、位の認識だったが、これまた一年の時に同じクラスだった咲太郎がまさか光に声をかけて仲良くなっている事に驚いた。
光はいかにも芸能人らしいオーラを放っていたし、ちょっと近づき辛い空気をまとっていたと思う。なのに咲太郎と話した途端、その印象はガラリと変わってまるでご主人様に懐く犬だ。
光の変貌ぶりにも驚いたが、もっと特筆すべきは咲太郎だ。
一年の時に紺野は咲太郎と同じクラスだったが、咲太郎の声を聞いたことは殆どない。顔立ちは日本人形の様だけれど、生気の少ない、ちょっと陰気な感じさえした。
それがどうか、光にはわりと言いたいことを言っているし、叱咤しながら何かと世話を焼いている。まるで夫婦漫才をしている様な二人に、俄然興味が沸いた。
ウマが合う……と言うのは彼らのような事を言うのだろう。今ではセットが当たり前だ。
光が咲太郎にべた惚れなのは一目瞭然だが、最近咲太郎も大分光に絆されている気がする。光と紺野が話している間は、出しゃばらず黙っていることが多いが、最近時々チリチリとした視線を咲太郎から感じるのだ。
そんな、女子が好きそうな展開あるかよ、と思ったが、多分なくは……ない。
そして自分は二人を邪魔する気は微塵もない。
「……成宮に見せちゃろ」
紺野は光の広告写真を背に、笑顔でカメラに収まった。
写真を撮った後、咲太郎のメッセージアプリに写真を送ろうかと思ったが、そう言えば近くの図書館で勉強会をしているんだったと思い出した。
連絡したらまだいるとのこと。ならばと図書館に向かったが……。
(いやいやいや、近いよ。君たち距離が)
男子二人の距離にしては些か近すぎでは? と思える距離で顔を寄せ合って談笑している様は端から見ればただのデート中のカップルだ。
(……一ノ瀬の締まりの無い顔ォ……)
キャップを目深に被り、マスクをしているが美形なのはダダ漏れだし、なんなら日本人形ぜんとしている咲太郎との二人の画はもうそこで出来上がっている。
頑張れ二人とも。
障害は多いかもしれないが今は令和だ。未来は明るいぞ! と思いながら、紺野は二人に声をかけるべく足を踏み出したのだった。
……帰宅後、シャワーを浴びて汗を流し、ひと息ついてスマホに目をやると通知のランプが光っている。
冷蔵庫から牛乳を取り出して行儀悪く直接パックから直飲みで牛乳を飲みながら通知を開くと珍しく咲太郎からだった。
「めずらし。なになに……?」
そこには、
『さっきの写真、俺にも送ってもらっていい?』
ゴクリと、牛乳を飲み込んだ音が響いた。
「……」
しばし考えたのちに返信の為に文字を打つ。
「……ネットで検索したら、もっと鮮明な元画像出てくるよ……っと」
ついでにその元画像も検索して添付してやる。
きっと咲太郎は、紺野も写った写真が欲しいわけではないだろう。
しばらくするとポコリと音が鳴って、有難うと書いた可愛らしい猫のスタンプが送られてきた。
「……キューピット翔真に改名すっかな」
呟いて残りの牛乳を一気飲みした。
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