第17話 きみとテストと。②
「もうダメだ……」
面談前とは打って変わってお通夜の様な光に、咲太郎と紺野は顔を見合わせた。
「いや、一ノ瀬、四教科240点だろ? 大丈夫だろ」
一教科60点じゃん、しかも範囲は一学期分。なんとかなるって、と紺野に慰められたが光は絶望的な表情だ。
「……そもそも一、二年の基礎がろくに出来てないんだ。国語は勉強しなくてもなんとなく点数が取れてたから今回は免除されてたけど、他の教科は正直ちんぷんかんぷんなんだよ……!」
何がわからないかが解らない……! と悲嘆にくれて頭を抱える。
昨年は時間がない光の為に、補習やレポート等でなんとかお
このまま点数を取れなければ、卒業を待たずして退学になってしまう。
だが光には、とてもじゃないが全教科で60点以上とる自信はなかった。
なんせ時間があまりない上に、何から手を付けていいかすら解らない。せっかく咲太郎や紺野とも仲良くなったのに、この夏を越えられそうにない。
「……勉強法が解かればいいんだろ? 俺が一緒に見てやるから頑張れよ」
落ち込む光に咲太郎が口を開く。
「で、でも咲に迷惑が……」
咲太郎は光と違って受験生だ、彼の負担になる訳にはいかない。しかも光は仕事の時間がバラバラで、光に合わせて咲太郎に時間を取ってもらうのは悪いし時間がなさすぎる。
咲太郎はうーんと顎に手をやった。
「テストは八月頭だろ? もうすぐ夏休みに入る訳だし、仕事がなければ午前中空くだろ。俺は夏休みも大体いつもの図書館にいるし時間が合えば図書館で勉強して、夜も家で九時から十二時の間は毎日勉強してるから、その間でお前の都合のいい時間にオンラインで繋がってりゃ解らかないとこ教えてやるけど」
「え、成宮って塾は?」
紺野がスケジュール大丈夫かよ? と心配する。
咲太郎は何でもないことのように答えた。
「塾は行ってない。金かかるから。
ずっと勉強してたから受験対策は一年の時からやってるし……一学期の範囲だろ? 大したことないよ」
サラリと言う咲太郎に紺野は「ヤバぁ……」と漏らし、光は涙目で咲太郎を見つめた。
「頑張れよ。俺も手伝うからさ、一緒に卒業しよう」
そうにこりと笑った咲太郎に後光がさした。
紺野は「うわっ! 眩しいっ!」と叫び、光は心の中で声を大にして、「好きぃーーっ!!」と叫んだ。
咲太郎のことをそういう意味で好きだと自覚したせいだろうか、昨日までより咲太郎がなんだか自分に優しい気がするし、どこを見ても可愛く見えてしまう。
男に可愛いというのも変だが。
咲太郎は光よりかは背は低いけれど低身長と言うほどでもないし、見た目もどちらかと言えば切れ長の目でキリリとした顔立ちだ。
運動部に所属していなかったせいか紺野と違って色白だし、頭の良さがその理知的な黒い瞳に反映されていて、見つめられると全てを見透かされるような気がしてドキリとする。
けれど自分に自信が無いせいか、強気な事を口にしてもいつもちょっと遠慮がちで、時々こちらの様子を伺っているところがまた可愛い。
(恋愛フィルターやばい)
勉強会の下準備としてまずは苦手箇所の洗い出し云々を提案している咲太郎のとなりで顔を覆い一人百面相中の光に、「ちゃんと聞けや!」と紺野にテキストで殴られた光であった。
【つづく】
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