幕間 ぼくにとってのきみ。
子役からこの世界にいる光にとって、現場が日常のようなところもあり、仕事に対してはいつもきちんと向き合いたいと思っている。
切り替えは得意な方だ。仕事に私情はなるべく持ち込まない。
けれど流石に今回ばかりは光も動揺していた。
(――好き? いや、そりゃ好きだけど。そう言うことじゃなくて……)
撮影現場に入り、自分のシーンが来るまで遠目で撮影を眺める。
いつもは他の俳優の演技を勉強も兼ねて見ているのに今日は少しも頭に情報が入ってこない。
控室で先輩に咲太郎にどうしてあげたら良いかを相談したつもりが、何故か光が咲太郎の事を好きなのではないかと指摘されてしまった。
咲太郎の事はもちろん好きだが、先輩の言う『好き』は友人としての『好き』ではない。
いわゆる恋愛的な好き、だ。
まさか、と咄嗟に否定したけれど、先輩の指摘に反論出来るところは一つもなく、挙げ句今この時でさえ、咲太郎のとなりに誰かがいると思うと心がザワザワした。
(オレ、普通に女の人が好きなんだと思ってたんだけど)
世間には知られてはいないが、光は過去に女優とお付き合いしていた事がある。
その時はもちろん彼女の事が大好きだったし、恋人として一通りの事は経験した。
だから、まさか男を好きになるなんて夢にも思っていなかったのだ。
『いつまで末っ子でいるつもり』
急に、昔付き合っていた
『光はね、アンタが守ってあげたくなるような、そんな相手を見つけなきゃダメだよ』
光は、彼女の事が大好きだったけれど。光より大分年上のあの人は、最後まで光に彼女を守らせてはくれず、光の元を去っていった。
思えば、確かにあの人が言っていたように、自分は彼女に大分甘えていた。
守りたい、だなんて。彼女からみたら子どもの戯言だっただろう。演じるのが仕事のくせに、大切な人を格好良く守る役すら演じきれていなかったに違いない。
咲太郎の傍は、居心地がよくて。あの人といた時みたいに素で甘えられている。
けれど確かに、
咲太郎と一緒にいると、彼に笑っていて欲しくて、涙を拭うのは自分がよくて、……彼に触れたくて。
彼のとなりを、誰にも譲りたくない。
これは確かに恋だと、過ぎ去った春を経験した事のある光は認めるしかなかった。
「うわ……」
ふいに脳裏に浮かんだ咲太郎が眩しくて。それだけで速まる胸の鼓動に、光は顔を熱くして俯いた。
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