第3話 ぼくのひかり。
自分は恵まれていると思う。
一番上の年の離れた兄が有名なデザイナーで、兄のデザインした服のモデルをやったことをきっかけに十歳で芸能界入りした。
三番目の兄も音楽業界で芸能関係の仕事についていたから、業界の闇にのまれることもなく、周りに守られながらこの世界を生き抜いてきたと言える。
顔は元々整っていたし、四人兄弟の末っ子として可愛がられて育ってきた光は愛想も愛嬌もあった。
はじめは演じているという感覚はなく、大人の言われるがままに笑ったり泣いたりするだけで喜んでもらえる事は、光にとっても嬉しいことで。
求められる自分の役割さえこなせば、みんなが満足してくれる。良かったよと褒めてくれる。幼いながらも天職と呼べるような仕事だと感じていた。
ただ……逆に子どものフィールドである学校という枠の中ではそう上手くもいかなくて。
いつも大人といるせいか、すんなりと話の通じない同級生。
女の子からは「格好いいね」と熱い視線を送られたりしたが、カメラは回っていないのに常に彼女達の望む姿でいないといけなかったし、逆にいい子を演じれば男の子たちからは「格好つけている」と嫌われていく。
仕事とは違って、演じれば演じるほど上手くいかない人間関係。
けれども、だからと言って素の一ノ瀬光のことも誰も望んではいなくて。
うわべの笑みだけ貼り付けて、なんにも気にしていないというふりをして、休み時間は図書室の隅か、机で突っ伏して寝ていればつまらない時間は過ぎていく。
親や兄達は中学を卒業する時にこの仕事を続ける条件として『高校は卒業すること』を光に課したが、正直仕事だけの方が楽だったし、学校にいても寝てばかりの光にはこれに何の意味があるのかはどうにもわからなかった。
もはや映画やドラマで学校を題材に作品を撮る時の経験値としての修行だ、と思い込むしかないとさえ思っていた。
だから、
付き合いたいとか、有名人とお近づきになりたいとか。そんな意図などなく、ご飯が美味しくなさそうだったからなんて理由で声をかけてきた彼に心底驚いた。
しかも彼は『二階堂光』を知らないという。
しかも当たり障りのないように適当に話をふったら、
『この先ちゃんと自分でどうしたいか考えとかないとさ、困るのお前じゃないの』
と真剣な顔をして光の心配をしていた。
『業界のツテも大事だけどな、最終的にお前の助けになってくれるのは何の変哲もないただの友だちだったりするんだぞ』
だから、ちゃんと高校くらいは出とけ。そう言った三番目の兄の言葉を急に思い出す。
咲太郎は凄く大人だな、なんて褒めたら「別に……ふつーだよ」なんて、少し恥ずかしそうにしている。
じわりと広がるなんとも言えない感情にちょっと不思議な息苦しさを感じながら、それでも決して不快ではないこの気持ちを噛み締めて「咲は凄いよ」と目を細めた。
悪態をついてぷいとそっぽを向いた彼の髪と横顔が、春の日に照らされてキラキラと輝いていて、ああ綺麗だなと何故か痛烈に思った。
そっぽを向いた咲太郎の顔をじっと見ていたら、そのうち「視線がうるさい! お前の顔は名前みたいに光ってて眩しいんだよっ」こっち見んな! と言われてシッシッと片手で追い払われた。
こんなに邪険に扱われたことが今までなくて、何故か込み上げてきて思わず笑ってしまう。
そうしたらまた、顔をしかめて「……変なやつぅ」と咲太郎に呆れられてしまった。
咲太郎は光のことが名前のように光っているというけれど、光には咲太郎こそが光って見える気がした。
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