2話

 冬の寒い日。


「ほれ、バッタ姫。餌だぞ」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」


 蝗虫の姫君は王様の部屋でまだ飼われていました。ちなみにバッタは草なら何でも食べますが、まがりなりにも王様が飼っているものなので、高級な麦の葉を与えられています。


「なあ大臣。やれることは全部試したよな」

「そうですね」

「祈祷の文句を唱えたら呪いが解けて人間に戻るなんてことはなかったし」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

「はい」

「キスしたら人間に戻るなんてこともなかったし」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

「よくやりましたよね」

「本物の人間の姫の肖像画が手元にあるから、それを利用して替え玉を用意するなんてこともできそうにない」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

「最初から向こうは肖像画なんて送ってきてないですからね」

「戦争になったとして、勝ち目は?」

「ないです」

「そうか……しかしそれにしても、冬もいい加減押し詰まってるけれど、このバッタ、死なないな」

「そうですねぇ。縁起がいいですから、佃煮にでもして食べますか? 寿命が延びるかも」

「やめておくよ。そろそろ愛着も沸いたからな」

「そうですか」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

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