第49話

そろそろ年越しの時間が近づいてきた。


クミは例によって撃沈し、杏と一緒にスヤスヤと眠りの国に。


プールサイドでは、メンバーがギターを弾きだし、そこに星也と宗一も加わって即席のセッションが始まっている。

静かなアコースティックの旋律が心地よい。


ポーチにいたアサト、月子、野々村、ユウカの4人は仕事の話やダンス、音楽論、マネージメントなど、色々な会話を楽しんでいた。

4人ともそれぞれ第一線で活躍しているだけはある。


野々村が特に興味をもったのはユウカの話だった。


まだ月子は知らないが、年内には海外に行く彼にとって、

海外で強力なマネージャーを雇うかが、

いかに重要かということを再認識していた。


「ユウカさんみたいなマネージャーがついていてくれたら、心強いですね。

ダンサーのマネージメントもなさるんですか?」


野々村がユウカに聞く。


「ええ。もちろん。興味ありますよ。

魅力的なアーティストはぜひお受けさせていただきたいですわ」


ユウカが答える。


「ユウカは非常に優秀ですよ。

僕が保証しますよ。

でも、気に入らないアーティストはいくら大物でも断るんですよ。

しかも、ギャラもかなり高い。

僕は詳しくは知りませんけど。あはは」


「もう、ナイトさん、

変なこと言わないでくださいよ。

私、鬼マネージャーみたいじゃないですかぁ。

やだなー。ふふふ。

確かに、お断りする方もいらっしゃいますけど、

野々村さんでしたら、お受けしたいです」


「流石ユウカだな。

野々村さんは世界に通用する日本人トップクラスのダンサーですからね。

二人は案外いいタッグになるんじゃないかなぁ・・・


そろそろ年が明けるのかな。

この続きはお二人でしていただいて、

僕たちは少し散歩しようか」


そう言うと、アサトは席を立ち、月子の手をとったた。


「ほんっと、素敵な二人・・・」


ユウカがポツリとつぶやくと、


「ほんと、妬けちゃうぐらい、ラブラブですよね」


野々村もしみじみと言った。




「ねぇ。いいのかな、お客様おいてきちゃって」


アサトに手をひかれながら月子が心配そうに聞いた。

プールサイドの向こうから二人を冷やかすメンバーがピーピーと指笛を吹き、


「ナイトー!やらしいぞー!

月ちゃんを茂みに連れ込んでナニする気ー?」

「月ちゃん、にげてー!」


と叫んでいる。

アサトは笑いながら、


「おまえらっ!

ムードが壊れるから少し静かにしてくれないかなっ!あはは」


と一瞥すると、

『あー、ナイトはこわいこわい、黙っとこ』と誰かが言い、

どっと笑いが沸き起こった。


「茂みって、ううう」


月子が笑いをこらえきれずにいると、


「っつたく。ほんっと、あいつらバカで。

まじで、明日筋トレでヒーヒー言わせてやるぞっ」


「そんなこと言って、アサト。

あの人達といるとほんと楽しそうだよ、

なんか中学生ぐらいに戻ってるし、あははっ」


「ま、まあ。そうだな。

確かにあれはあれで緊張感ゼロな感じが楽と言えば楽なんだよな。

中学生って。そんなに?ははっ」




真っ暗な砂浜を少し歩くと、

「あ、ここだ」

と言って、アサトが腰かけた。


月子には暗すぎてなにも見えなかったが、

ほんとうに彼の目は暗闇に強かった。


月子も座らせると、いつ用意したのか大きな敷物が敷かれ、

ワインのセットが置かれていた。


「アサト、いつの間に用意したの?」


「ここで二人でカウントダウンしようと思ってさ、

日のあるうちにね」


キャンドルに火を灯しながら、アサトは言った。




ワインで乾杯をすると、アサトは再びキャンドルを消した。


「うわ、また真っ暗」


「さぁ、そろそろ、ニューイヤーだ」


彼が月子の肩を引き寄せたとき、




ドーーーーン!


という音のあとに大きな花火が夜空を明るく照らした。



「うわぁー!」


月子は嬉しそうに花火に顔を輝かせている。



「まさか、アサト。

この花火、用意してない?よね?」


「したよ?」


サラリとアサトが答える。


「ええええええ!」


「海からあがる花火、君に見せたくてさ、

花火の人にお願いしておいたんだ。

やっぱ本職があげるときれいだなー!」


アサトはニコニコしながら満足そうに花火を眺めている。


(ああああ、またやってくれたんだ!サプライズ。

嬉しいけど、このスケールにはほんと慣れない・・・)

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