第48話

大晦日の朝、さらに新しい客がやってきた。


「ひゃー!すごい大きな屋敷だなこりゃぁ」


「ほんと、素敵なところ!」


屋敷の門から白いサンゴの小道を歩きながら、

大きな荷物を抱えた二人。

徐々に見える建物の全貌と目の前一面に広がる青い海にすっかり興奮していた。



「来た来た。おー!よく来たな!」


アサトは二人に大きく手を振った。

満面の笑顔で生き生きとしている。


(へー。あんなナイトさんの笑顔、見たこと無いかも。

あんなに嬉しそうに笑うんだ)


「ナイトさーん!来ましたー!」


腕にまだギブスを巻いたユウカがそれを見せるように、振ってみせる。


「ちょっ、ユウカさん、やめてくださいよー。

まだ折れてるんだから無理しないでください!」


星也が少し怒って、はしゃぐユウカをたしなめた。


(でも、ユウカさん嬉しそうだな。

思い切って誘って良かったかも)


義兄さんからクリスマスに

『こっちに気分転換に来ないか?』

と連絡をもらって、ダメ元でユウカに声をかけてみた。


ユウカが『どうせ年末年始予定ないから、行っちゃおうかな』と快諾したので、バタバタとロスを旅立った。



「えええええ!星ちゃん!ユウカさんも!」


月子は安定の驚きを見せていたが、

二人に再会できてとても喜んでいた。


「ユウカ、元気そうで安心したぞ。

よく来てくれたね。星也もご苦労さん」


ナイトは嬉しそうに二人を抱きしめた。


今日は料理人を呼んで年越しパーティーをすることになっていた。


昼を過ぎると、例によってぞろそろとナイトのバンドのメンバーがやってきた。

どこからどう見てもビジュアル系グループ丸出しの姿に杏が固まってしまったほどである。


「しっかし、ナイトー!

こんないい場所俺らに隠しとったなんて、

お仕置きやで!

前に知ってたらここで合宿できたやん」


「実はお前らだけには教えたくなかったんだよ。

でもまあ、しかたないしなっ。

日ごろ世話になってるから。

てか、合宿とかしないしっ。

オマエらは寝るとき下の座敷に雑魚寝だから、よろしくなっ」


「ええーーっ!まだ他に部屋余ってるやん!

男4人で雑魚寝はご勘弁をーーー!」


一同が笑いの渦にまきこまれ、

ワイワイと好きなように過ごしている。



「月子。みんな楽しそうだね。いつも招待ありがとうね」


クミがしみじみと月子に言った。


夕暮れの海を背に、プールサイドの松明の明かりが美しく燃えている。

こういう演出もアサトは抜かりが無かった。


リビングで月子、クミ、ユウカの三人はそれぞれの思いを胸に、大晦日の夕日を眺めていた。


「ううん、クミちゃん。私は何にもしてないよ。

全部アサトのおかげ。

こうしてどんどん輪が広がって、みんな来てくれて、

ほんとうにありがたいよ」


「私も呼んでいただいて、ほんとうにありがとうございます。

素敵な仲間ですねみなさん。

ロスであんなに楽しそうで自然なナイトさん見た事ありませんでしたもの」


「ユウカさん。それはね、

月子がいるからなのよー。ふふふ。

この二人ったら、もう嫌になっちゃうぐらいラブラブだからー!ねー!月子?」


突然話の矛先を自分に向けられて、月子の顔が赤くなった。



(・・・かわいい人。ほんとに)


ユウカの胸の奥がチクリとした。

もうナイトに未練はないが、まだまだ失恋モードらしい。


でも二人を目の前にしていちいち傷ついているのは、もうさすがに辞めにしたかった。


「クミ・・・さん?も素敵な旦那様で羨ましいです」


ユウカは何とかクミに話題をふってみる。


「えっ、うち?

うちは、共同体ってゆーの?

月子達みたいな色気は・・・

ないんだよなー。あはははは」


「そ、そうなんですか?

夫婦ってそういう感じなんですかね?

わたし、イマイチイメージできなくて。夫婦とか・・・」


「ユウカさんはさ、好きな人とか、いないの?

こんなに美人だもん、彼氏の一人や二人いるよねー?ねー?」


ワインがまわってきたクミがユウカに聞く。


一瞬、ユウカが赤くなったが、


「いないんです。

モテないというか、縁遠いんですよーわたし。

好きになる人はいっつも私には眼中なくて、こまったものです」


「えええええ!ユウカさん、もったいないよー!

月子もそう思わない?

こんないい女、失礼、素敵な女性なのに、ねぇ?」


「うん。ユウカさんは、美人で、頭もよくて、お仕事もすごいできるから。

高嶺の花みたいな存在なんじゃないですか?

本当はユウカさんのこと思ってるけど、

告白できない人がたくさんいるとおもいます。

あ、お世辞とかじゃなくて」


「ふっ。あ、ありがとうございます。

二人にそんなふうに言われると、変な自信もっちゃうかも。

どこにいるんでしょうねー、私の運命の人・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る