第46話

屋敷に戻ると、人の声がしていた。


「ねぇアサト!?だれかいるよっ!」


月子は少し不安げに僕の後ろからそっとリビングをのぞいている。


そこにいたのは、3人の大人と1人の子供・・・

クミとクミの夫の宗一、野々村と娘だった。


「わー!なんでなんでー?」


びっくりしている月子をよそに、


「いらっしゃい。よく来たね」


と、みんなと挨拶をする僕。


そう、たまにはホームパーティーも良いかもしれないと、

みんなを年末年始に招待をしていたのだ。


これもロスで学んだ楽しみ方のひとつだった。

身近な人を招いて、楽しい時を過ごすのも案外悪くないと、学んだのだ。


一人になりたくて隠れ家として用意したこの家が、

月子をとおして人の集う家になった。

これも僕にとってはびっくりな話だけど、

僕はとても満足していた。


なにより、月子もとても嬉しそうに、

みんなとワイワイはしゃいでいる。

そして、小声で僕に、


「アサト、すごいね。

野々村さん親子まで招待してくれるなんて、

ほんとにあなたにはいつもびっくりさせられちゃう。

ほんとうにどうもありがとう」


(月子が喜ぶことなら、僕はなんでもするさ・・・ふふっ)


「ふふっ。まだまだ、ぞろぞろ来るはずだよ」


月子の耳もとでそう返事をすると、

彼女は一瞬ギョッとしたようだったが、


「あぅ。そうなんだ。へぇ、楽しみ!

・・・食材買い足しにいかなくちゃね」


月子はちょっとひるんでいたが、

抜かりの無い僕は、

市場で食材の配達手配をしてあったので、

心配することはないと彼女に言った。

必要ならシェフに来てもらうことだって可能だったし。




屋敷では各自好きなことをして、自由に過ごしていた。


クミの夫、宗一は相変わらず釣りに興じ、

僕はなぜか野々村と話すことが多かった。

月子のいうとおり、よっぽど気が合うのかもしれない。


まだ他の人には内緒らしいが、

話がまとまり次第、彼は海外のバレエ団に行く予定だと僕に告げた。


「・・・そうなんですか。もちろん、お子さんも渡航されるんですよね?それは月子も寂しがるだろうな」




庭の東屋で野々村の子供の杏(アン)と遊んでいる月子を眺めながら僕はつぶやいた。


杏はほんとうに月子に良くなついていた。

こちらに来てから月子にまとわりついて離れない。


夜寝るときも月子のベットで寝たいと言い出し、

小さい姫は僕と月子の間でスヤスヤと眠ってしまう。


「まあ、母親がいないせいですかね。

あの子があんなに月子さんに懐いてしまうとは、

私もほんとうに驚いているんですよ。すいません。


普段は結構人見知りが激しい子なんですけどね、

海外にはもちろん連れていくつもりです。

男ひとりで寂しい思いをさせてしまうかもしれませんが、

むこうでは住み込みの乳母を探そうと思っています」


「なるほど。海外ではプロの乳母がいますからね・・・」


まだ3歳の杏がすこし不憫に思えたが、

将来的には彼女にも良い経験になるだろう。


僕は野々村が海外に行く事を応援したいと心から思った。



「しかし・・・ほんとうに、月子さんは素敵な女性ですよね。

あなたが羨ましですよ」


なにげなく、野々村がつぶやいた。


「そうですね。

彼女が、月子がいてくれて、僕は幸せですね。

ありがたいですよ」


僕は否定するでもなく、素直にそう答えた。


「僕たちは、出会ったその日に惹かれあってしまって、

まぁ、そんなかんじです」


「わかります。

私も、あ、怒らないでくださいよ、

月子さんを初めて見た日、

私の場合、一緒に踊った日ですけど。

月子さんの人柄が見えたような気がして、

素敵な人だなって思いました」


僕は、野々村の話を黙って聞いていた。


「もし、彼女が独身なら、

いや、あなたみたいな素晴らしいご主人じゃなかったら。

あなたの事をこれほど愛していなかったら・・・

奪っていたかもしれません・・・って、

怒ってます?すいません、変な話をしてしまって。


でも、彼女を食事にさそって、

あなたの話を聞いて、こりゃ無理だなって思いました。

ほんとうに。

それからは、変な下心は消えて純粋に彼女と交友を深めさせてもらっていますよ。

ほんと、怒ってません?」


「・・・いや、怒っていませんよ。

月子をそんなふうに褒めてもらって、

嬉しいです。ほんとうに」


野々村は普段は気難しそうな顔をしているが、

一気に破顔して、人なつっこそうな笑みを浮かべた。


「ふぅっ。よかった。

あなたには、伝えたかったんです。

月子さんは素晴らしいって。

僕のあこがれの人だったって。

気持ち悪いですよね、いい年した子持ちの男が。あははは」

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