第44話

深夜も近くなり、やっと月子達は帰宅した。


「少し、飲みすぎたよ。野々村って面白いヤツだなぁ」


「うん。ほんと、良い人だよね」


「ちょっと考え方が僕と似てるんだよ、

仕事への向き合い方も女性の好みも・・・」


そう言いながら、チラリと月子を見る。


「えっ?女性のこのみ?

そんな話までしてたの?

ほんと、よっぽど気があったんだね。へーへー」


月子が日本茶を淹れながら軽く答える。



「・・・ああ、美味しいなぁ。

やっぱり日本はいいな」


しみじみとアサトが言い、

美味しそうにお茶をすすっている。


「年末年始は仕事オフにしたから、

少しはゆっくりできそうだよ。月子の予定は?」


「私もお当分はゆっくり。

3月から地方公演があるんだけどね」


「そっか、地方公演か。

月子、なんかカッコいいな。よく頑張ったね。

さっき、ファンの子たちにサインとかせがまれている姿見たら、なんか感動して声かけられなかったよ」


「ええっ、なんか恥ずかしいな。

あんなとこアサトに見られるなんて。

私なんてサインとかないのにさ、ほんと困っちゃってフルネームで浅井月子って書くしかなかったよぉ」


「あはは。そっか。

じゃあ月子も自分のサイン考えなきゃだめだな。

サラサラっとカッコいいやつ。

でも、ファンに囲まれてる月子、

ちゃんとアーティストの顔してたぞ。ほんと素敵だったな・・・」


「ううう。ありがと。

もう、言わないでぇ。

ナイトに言われると恐れ多くて笑えませんよ」



「・・・こっちに来て」


アサトは月子を隣に座らせて肩に腕をまわした。


「つきこ、長い間待たせてごめん。

それに、舞台お疲れ様、相当疲れただろう?」


「ううん。アサトこそ、本当にお疲れ様。

あなたの顔見たら疲れなんてふっとんじゃった。

なんかこういうの久しぶりだねぇ・・・」



窓の外には冬の星座とクリスマスシーズンの夜景がひろがっている。


月子は彼の胸に頭をもたげてぬくもりを感じていた。



「アサトは、眠くないの?

あなたこそ疲れてるんじゃない?

色々あったし、時差ボケとかは?」


回した腕の中から月子が見上げている。

彼女の顔にかかった髪を指ですくうと、

そのやわらかい香りをかいだ。


「僕は、ぜんぜん。

色々あったけど、ロスでの時間は本当に充実していて、

なんか自由でさ。

日本は好きだけど海外のほうが暮らしやすいなって、あらためて思ったよ。

まあ、全部僕の仕事の都合だし、

欲を言ったらきりがないけどさ」


「・・・やっぱり。

アサトは日本だとなかなか自由にできないもんね。

今日はじめて私のファンですって言ってくれる人たちに囲まれて、ほんの少しだけあなたの大変さがわかったよ」


「うん。ファンは大事だし、感謝してもしきれないよね。

僕はナイトとして夢を売る仕事だけど、

これからは、もう少し人間臭くってもいいのかなって、

最近ちょっと思ったりするよ」


「・・・あなたの思うとおりにやってね。

私はいつもそばにいるから」


「私ね、たった数年だけど、

プロとしてバレエやれて、あなたと結婚してからも自由にさせてもらえて、

ほんとうにありがたいなって思うの。


でも、あなたに着いて行きたかったのもあるし、

ほんとうに欲張りなんだなって、思ったんだ・・・」


「いや、月子はもっと欲張りでいいんじゃないかな。

月子が満足できたなら僕は嬉しいし。

僕もいつでも応援するよ。

それに、君は僕の最高の奥さんだよ」


「・・・ありがとう。アサト」



「ところでさ、明日、どうしよっか。

何時に行く?沖縄」


「えっ!明日?やっぱり行くの?」

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