第43話
「わっ!クミちゃんひさしぶり。
ごめんごめん、久しぶりなもので、ついね。
だれも僕だってわからないだろ?
変装してるから、あははは」
アサトは茶目っ気たっぷりのウインクをクミに向けた。
(げっ、久々のナイトのミラクルスマイルもらっちゃったよ!
しかもウインクつきー!相変わらずかっけぇなーー)
クミは目眩をおぼえたが、なんとか踏みとどまり、
「あうあう。アサト、おかえりっ。
そんな変装じゃバレてますからっ!
ま、まぁ、夫婦だから、別にイチャついててもいいのか。
あーあー、ごちそうさまー」
「えっ!僕だってわかるのか?!
途中道が混んでてさ、
車から降りて一人でここまで走って来たんだけど、
だれも、気づかなかったぞ」
(いや、見る人が見ればわかるっしょ、
ナイトだよどっからどう見ても。
ばっちしオーラ出ちゃってるからー)
クミは心の中で苦笑しながらツッコミを入れる。
そろそろ周りの人たちのザワつきが大きくなり始めてきた。
(ついでにナイトのサインももらっちゃおうか)
などと狙っている女子たち。
「とりあえず、みなさんここを移動しませんか?」
野々村がいきなり口火を切った。
(スタッフにしては堂々としていて、
シュッとした男前だとは思ったが、
この男が月子の相手の野々村か・・・)
移動する車の中で、アサトは考えていた。
成り行きで、4人はせっかくだからと食事に行く事になった。
「やっぱ、みんなお疲れだから、焼き肉だよね、月子もそう思うでしょ?」
クミだけが車の中で嬉しそうだった。
クミは別に疲れていないのだから仕方がない。
ナイトと野々村は車中でかるく挨拶をかわし、お互い黙っていた。
月子は二人に挟まれた座席で、
(ううう、なにこの空気、
アサトもうちょっと愛想よくしてぇ、
殺気でてるんですけど・・・)
「妻が・・・ずいぶんお世話になったそうで、ありがとうございました」
店内で最初に口をひらいたのはアサトだった。
サングラスをゆっくりとはずし、
相手を見据えるお決まりの仕草。
口元に笑みは浮かべているが、目は笑っていない。
「いえいえ、こちらこそ色々お世話になりましたよ。
ご主人はずっと海外だったんですよね?
僕の娘も月子さんにだいぶ懐いてしまって。ははは」
野々村も負けてはいなかった。
(この人たち、あかん。
龍と虎の戦いじゃないんだからさぁ。
もう、ほうっておこう・・・)
二人が静々と火花を散らしながらも会話をしている横で、
月子はせっせと肉を焼き、クミはひとり上機嫌で食べていた。
ところが、どういう訳か、
食事が終わるころにはアサトと野々村はすっかり打ち解けていた。
アサトが仕事以外の人間と意気投合するのは、とても珍しいことだったので、月子は驚いていた。
(はっ!?なに二人!?意気投合してるとか?
今度うちに遊びにくればとか、アサト言ってるし。
まあとにかく、
野々村さんアサトに殺されなくてよかったよ。ううう。
バレエの舞台よりも、この場のほうが緊張したし疲れたよ)
それでも、久しぶりにリラックスしたアサトの顔を見るのは嬉しかった。
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