第37話

「夜中の1時か・・・」


僕は自室に戻り、大きく息をついて時計を見た。


自分のことを好きだという、美しく魅力的な女性に言い寄られて断ったのは初めてかもしれない。


冷静に考えれば男としてものすごいプレッシャーだった。


もちろん、ユウカをどうこうする気は全くなかったが、

正直、喉がカラカラになった。


でも、ユウカに言った言葉に嘘はなかった。

今の自分が月子以外の誰かを抱くということは、それだけの覚悟をもっているということを彼女にはわかってほしかった。

頭の固いつまらない男だとバカにされてもいい。

頭の良い彼女ならきっと理解してくれるだろうと思えた。


もしあのまま、ユウカにせまられていたら・・・


(しかしなぁ・・・)


月子と離れ離れの生活で、女性に不自由しているといえば当たっている。

誰かれ構わずに欲情する年でもないが、それなりに欲しくなる夜もあった。


「あー、もう、月子!なんで君は僕のそばにいないんだよ!」


やり場のない気持ちを月子に向かって愚痴ってみる。


(日本は昼の3時か・・・)


今はどうしても声が聞きたかった。


(・・・・・。・・・・・・。)


「出ろ。出てくれ」



「・・・はい。アサト?」



少し息を切らした彼女の声。


「月子!愛してるよ」


「えっ!どうしたの?いきなり。ふふふ。私もだよ。

アサト、大丈夫?なんか様子が違うみたい・・・」


「月子。会いたいなぁ。おまえが恋しいよ・・・」


「アサ・・・ト。本当に大丈夫?もしかして、酔ってる?」


「・・・うん。少し酔っ払いなんだ。ごめん、びっくりさせて。


元気でやってるけど、寝る前に、どうしても君の声、聞きたくてさ」


「そぉ。それなら良かったぁ。私も元気だからね・・・」


月子の明るい声を遠くに聞きながら、僕は安心してまたしても眠ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る