第34話

数日後、ナイトに同伴したパーティーは無事に終わった。


ユウカは真黒のホルダーネックのワンピースドレス。

なんとかナイトのエスコート役をつとめることが出来たことで、ホッと胸をなでおろし、ナイトよりも一足さきに会場のエントランスを抜け出ていた。


ナイトは出口で友人につかまり、また談笑している。


今夜も相変わらず、会場の誰よりも格好良くキマッていた。

会場で出会った数人は、ユウカがナイトの妻だと勘違いして、

それをいちいち訂正しなければならず、ちょっと疲れてしまった。


(でも・・・ナイトの奥様ですか?とか、

ちょっと嬉しかったな。間違われただけだけど。

ナイトは私に気を使っているのか、めんどうくさいのか、

強く否定しないんだもの。

微笑して意味深な顔をしていたら、ほんと、勘違いされちゃったままだよ)


すると、同じく会場をあとにしたミュージシャンの一人がユウカに近づいてきた。


「さすが、ナイトだな。

この間のパーティーでは本妻を連れてきていたけど、

君はナイトのロスの妻ってとこかな?

しかし、日本人はイイ女が多いな。ナイトが帰国したら連絡してきなよ」


だいぶ酔っているのか、酒くさい息を吐きながらユウカをなめ回すように見ると、肩に腕をまわしてきた。


「ちょっと、やめてください!私は彼の仕事の・・・」


重たい腕を振り払おうとするが、今度は腕をつかまれて腰をグイッと引き寄せられてしまった。


「仕事の?はははっ、仕事でも何でもいいや、

こんないい女そばに置いたら毎日楽しいだろうなー」


ユウカは状態をのけぞらせて、逃げ出そうともがいた。


「おまえっ!汚い腕をどけろっ!」


そう言うが早いが、ナイトが酔っ払いの腕を後ろにねじ上げた。


顔は怒りで震えている。


「ナイト!いてててっ!なにしやがるんだっ!はなせっ!

俺たち友達だろ?それに、本当のこと言って何が悪いんだ!

この女はおまえの女なんだろ?えっ?!」


「まだ言うのか。

それ以上彼女に無礼な口をきくと本当に腕が折れるぞ。

もうおまえは俺の友達なんかじゃない。彼女に謝れ!」


静かだがものすごい凄みのある声で言いい、

ねじった手にギリギリを力を込める。

ナイトが本当に怒っている時にだけ見せる、ぞっとするような冷たい表情。


相手が有名なミュージシャンでも何でもナイトは容赦はしない。


「ううう、いててててっ!わかったよ、冗談だよ、冗談!」


まわりでは数人の人が集まってきてしまい、

酔っ払いはヘラヘラと笑でその場をおさめようとする。

しかし、ナイトは決して許そうとしなかった。


「彼女に・・・謝るんだ」


「あ、あの、私なら、大丈夫ですから、ほんと、すいませんっ!


ユウカは半べそをかきながら、自分のせいでスターである二人が揉めてしまったことに申し訳なくなって、その場を収束させようとした。


「君は黙っていろ。この男の侮辱は君の連れである僕が許さない」


「す、すまなかった!ちょっと酔っていて、言いすぎたよ」


酔っ払いが脂汗をたらしながらユウカにそう言うと、

ナイトはねじ上げたうでを汚いものでも振り払うかのように突き放した。


「さあ、行こう」


そして、地面に転がった酔っ払いには一瞥もくれずにその場をあとにした。

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