第25話
二人を見送り席に戻ると、ユウカがボーっとしながらグラスを傾けていた。
「兄貴達、帰りました」
「そう、よかった。今日も無事に終わって、お二人は幸せそうで」
(・・・ユウカさん、なんだかいつもと様子がちがうな)
星也がユウカの少し寂しそうな横顔を見ていると、
「私ね。なんだろう。なんだか、凄く・・・」
その先に彼女が何を言いたかったのか、星也にはわからなかった。ただ、彼女は今まで見せた事のない表情をしていた。
「さあ、飲みましょう。明日もオフだし、まだまだ飲むぞ!ね、ユウカさん」
元気な星也の顔を見ながら、ユウカも、
「そうね、この際だから、高いワイン飲んじゃおうか」
と言って笑って見せた。
隣で、色々な話を面白可笑しく話す星也の言葉を、上の空で聞きながら、適当に相づちをうつ自分。
(私・・・絶対に好きになってはいけない人に、恋をしている。
絶対にかなわないのに、どうして・・・こんな気持ちになってしまったんだろう。
あの人には、あんなに可愛くて素敵な奥さんがいて、愛し合っていて。
それなのに、わかっているのに、恋に落ちてしまった。
いつから?最初は、ビジネスのクライアントとして接していた。彼も、一度も私にそういう素振りは見せたことなどない。
本当に一方通行の私の思い。
そう、あの日。ユウカ。と名前で呼ばれたときからかもしれない。
なんで?そんなことで?好きになる?
ため息の出るような、素敵な男性は今までたくさん見てきた。
でも、あの人ほど、人を引き付ける魅力のある人には、会ったことがない。だからって、どうにもならないのに。
まだ数か月は、一つ屋根の下で毎日顔を合わせ、仕事のサポートをしなければならない。
自分の気持ちを悟られないようにできるのか、自信がない。
どうしよう。私としたことが。
都合が悪くなったとでも言って、辞めてしまおうかな・・・
あの人が、あんなに奥さんを愛していなければ、もっと奥さんが嫌な人だったら、奪ってしまいたい。
でも、絶対に無理なことが、今日はっきりわかった。
私ったら、ホントばかみたい)
だいぶ酔っている様子のユウカを心配そうに見守っていた星也は、
「そろそろ帰りましょうか。ユウカさん、俺、タクシー拾ってきますね」
ユウカは彼女にしては珍しくかなり酔ってしまっていた。
星也の腕にぶら下がりながら、
「ねぇ、星也君。今日は一人になりたくないの。
今夜もうちに泊まりなよ?そばにいてくれるだけでいいから・・・」
「・・・えぇ!、ユウカさん。
今日、なんかおかしいですよ。
まぁ、俺はどこででも寝れますから、また、ソファ貸してくださいね」
少し動揺しながら答える星也に、
「・・・うん。・・・ナイト・・」
ユウカは半分夢の中で答えた。
(え!?今、ナイトって・・・ユウカさん、もしかして兄貴のこと・・・えぇ!?まさかね)
星也は酔いもすっかり醒めて、彼女の自宅へと向かった。
「……ねぇ、アサト。
もし私と出会ってなかったら……
今のあなたは、どうしてたと思う?」
僕の腕の中で、不意に月子が聞いてきた。
「ん?……」
僕は、普段から(もし)という事をあまり考えたことがなかった。
過去の(もし)は、存在しないと思っているし、
今、いや、未来が全てだと思う、超現実主義な人間だ。
未来については日々、色々考えている。
先のビジョンをしっかり描けなければそれに向かって進めないから。
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