第17話
彼女は、スヤスヤとベットの上で寝ていた。
厚手のバスローブにくるまって、大きなベットの隅に丸まって寝ている。
わずかに覗いた足先が豆だらけになっていて、痛々しい。
(ずいぶんハードな練習をしているとは聞いていたが、休む間もなくこっちに来て、疲れたんだろうな。
しかし、こんな無防備な姿で鍵もかけずに寝るなよ。
これじゃぁ、危なくってしょうがない)
僕は、彼女の頬にキスをしようとしたが、やめて、しばらく彼女の寝顔を見つめていた。
二か月しか離れていなかったのに、もうずいぶん逢っていなかったような気がする。
そっと柔らかい髪に触れると、まだ少し湿っていた。
風呂からあがって、そのまま疲れて寝てしまったんだろう。
クローゼットから毛布を出すと、彼女にそっとかけた。
(彼女が目覚めるまで、そっとしておこう)
僕は彼女の部屋の中のドアから自分の部屋に入り、自分もシャワーを浴びた。
今、月子が僕の近くにいる。それだけで嬉しかった。
僕は、いつからこんな僕になったんだろう。
今まで、こんな自分を見たことがない。
長いこと、ずっと仕事に追われていたけれど、
昔は仕事が終わると一刻も早く独りになりたかった。
独りで過ごす時間が僕の唯一の癒しの時間だった。
それなのに、今は、独りでいるよりも、ただ、月子がそばにいるだけで、今までの何倍も何十倍も癒されている。
離れていても、彼女の存在そのものに、日々感謝するほどに。
愛しているというだけでは、とても、言いあらわせない。
何なんだろう。この存在は。この気持ちは。
こんなにもゆるぎないものが、ゆるがないものが、僕の中にもあったなんて。
僕は、いまだに信じられなかった。
まるで幸せな夢の中にいるような感覚。でも、現実。
だから、ときどき不安になる。
こんなにも大切だと思えるものを、今まで持ったことがなかったから、失ったこともない、何も知らない僕。
思考はいつもそこでストップする。
その先を考えるのが怖かった。
今は彼女の存在そのものが、僕が存在している理由のような気がする。
僕たちが存在している理由。僕たちが出会った理由。
「いつか・・・わかるのかな」
ひとりポツリと呟いて、ボトルの水を一気に飲んだ。
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