第15話

いわゆる日本風に言うところの(お屋敷町)の丘に車が入って行くと、それはびっくりするような豪邸が立ち並んでいて、月子はポカンと口を開けていた。


しかも、多分豪邸なんだろうな、と想像するだけで、

どの家も門しか見えないぐらい大きい。


(・・・アサトはこんな凄いところに住んでいるの?)


ある門の前で車が止まると自動で門が開き、車はさらに奥へ進み大きな屋敷の前でとまった。


「うわ、すごいね。ここに住んでるの?星ちゃん達」


「うん。ユウカさんが、知ってるでしょ?

兄貴のエージェントのユウカさん。


彼女が手配してくれて借りてるんだ。

俺も最初はビビったよ。

こんな街もたくさんの豪邸も見た事ないじゃん、普通」



月子はあっけにとられながら、エントランスをくぐって行った。


「おじゃましま・・・す」


中では、お手伝いさんらしき人や何かをする人など数人が月子を出迎えた。


[はじめまして。奥様(マダム)]


口々にそう言いながら、月子に軽く会釈してくる。


(えっ?!マダム?!


ああ、そうか、私、奥さんだからマダムなのか。

でも、奥様って、そんな偉そうなもんじゃないんだけどな。なんか変な感じだよー)


月子は気おくれしていたが、一人一人と握手をかわしながら、


[こんにちは。どうぞよろしくお願いします]


そう挨拶して奥に進んだ。



[マダムのお部屋はこちらですよ]


と、年輩の女性に連れていかれた二階の部屋は、日本の広さで20畳はあるだろうか。


(わぁ、すごいよここ)


ラベンダー色の壁にローズレッドのカーペット、

大きな窓からはたっぷりと陽射しが差し込んでいる。


まるで高級ホテルのようにキッチリと整えられたベット。

調度品のドレッサーやソファーセット、書き物机などが品よく配置されている。

専用のバスルームと化粧室もあった。


月子は、今までにもアサトに色々なところに連れて行ってもらい、超がつくほど高級なところにも宿泊したことはあったが。

個人の邸宅でこれほど豪華なのは見たことが無かった。


イギリスの貴族の館とも違う豪華さ。

まさにハリウッドセレブが住む家・・・というのだろうか。

何もかもが大きくて、とても洗練された高級感があった。



[あのぉ、このドアは?なんですか?]


そばにいた女性に、部屋の隅にあるドアを指さすと、女性はニコリとしながら、


[そちらは、旦那様のお部屋につながっているドアですよ]


と言った。


(ええっ!すごいなぁ!

アメリカの夫婦の寝室は別なの?

で、中で繋がっているなんて。なんというか、ほんとすごい)




今、アサトとユウカは撮影所にいるらしく、帰宅までには、まだ時間があるようだった。

星也も月子を送り届けるとすぐに撮影所に戻っていった。



彼女は大きな屋敷を探検してみたい気持ちもあったが、

着いてそうそう、一人でうろつくのも何だか気が引けたので、自分の部屋で紅茶をいただくと、


[部屋で少し休みますね。あとはお構いなく]


とメイドの女性に告げた。


[そうですか?何かありましたらすぐに内線でお呼びくださいませ。受話器をとってゼロを押してくださればつながりますので、では、ごゆっくり]


女性は丁寧な物腰でゆっくりとドアを閉め、出ていった。




(ああー。なんか、毎回アサトには驚かされるけれど、

今回も調子狂っちゃうな。

こんなことなら、もう少しちゃんとした格好をしてくれば良かったのかな?)


大きな鏡に映った自分の姿は、

はき古したデニムに白いシャツ、おまけに、スニーカー、髪を頭の上にひっつめて、

なんだか、とても・・・ラフだ。


(ぷっ。どう見ても、奥様には・・・見えないわ)


広いシャワー室で旅のホコリを落とすと、少しホッとした。


(もうすぐ、アサトに会えるんだね)


髪を乾かしながら、大きなベットに腰をかけ、何を着たらいいだろうと考えていると、陽だまりのその心地よさに、いつの間にかウトウトと寝てしまった。

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