第13話

俺はユウカさんと話しているうちに、なんだか恥ずかしくなってしまった。

自分の事をペラペラと話してしまった子供っぽい自分。


(ユウカさんって、姉貴と同じ年くらいかな?

話を聞き出すの上手いし、頭が良くて、綺麗で・・・

同じ女性でも姉貴とは全然違うタイプだな)




息を整えて、音楽室をノックすると、


「どうぞ」


という義兄さんの声が聞こえた。


「失礼しまーす」


そろそろとドアを開けると、義兄さんが静かにピアノに座っていた。


少し首をかしげながら、何か書きつけている。


(うーわ、しまった、作曲の途中だったんだ)



「ああ、星也か。

なに?今日、これから何かあったっけ?」


義兄さんが紙から目をそらさずに聞いてくる。


俺は、慌てて、


「あ、あのっ、ゆ、夕食、何にします・・・か?」



義兄さんはチラリと俺を見ると、


「ああ、夕食か。

星也、ちょっと中に入ってここに座りなよ」


(ひぇっ!?)


実は用もないのに逃げ込んで来たのがバレたのかと思って、

俺は静かにドアを閉めると、ソファの隅に小さくなって腰をかけた。


「どした?何か・・・あった?

オマエ、顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないのか?」


楽譜に目をやり聞いてくる。


「えっ?な、何でもないです!元気です!すいません!」


一瞬、義兄さんが「ふっ」と笑って、



「星也さぁ、楽器ひけるんだよな?楽譜は読める?」


「は、はい。ギターとピアノをちょっとだけ・・・

楽譜は読めます、簡単なのだったら」


「そっか。今さ、新しい曲が出来たんだよ。

弾くから聞いて感想きかせて」


そう言いながら、義兄さんがピアノを弾き始めた。





とたんに、音楽室の空気が変わる。


曲は、少し寂しげなスタート、でもサビはドラマチックで美しい旋律。


ナイトの細くて長い指が鍵盤の上で音を紡いでゆく。


男の俺でも、思わず見とれてしまう、綺麗な横顔。


(ヤバババババい・・・かっこよすぎる。

ナイトのピアノ、しかも出来立ての曲ー!

俺一人が聞いてる!ヤバい、泣きそうだ!

ヤバいよ姉貴ー!)


気づくと、曲は終わり、義兄さんが俺を見つめていた。


俺はハッとして、現実に引き戻される。



「星也さ。ちゃんと聞いてた?目が逝っちゃってるぞ」


(目が潤んでるの、バレたのかな?恥ずかしすぎるー)


「に、義兄さん!すごくいい曲だと・・・思います!

ドラマチックで、バンドでもピアノだけでも、オケでもいけそうで。

あ、すいません、生意気な事言って」


「・・・そっか。星也がそう言うなら、これでいこうかな」


「えっ?!ちょ!まって!俺の意見なんて」


すると、義兄さんの目がキラッと光って、


「星也さ、『俺なんか』って言うの、やめなよ。

僕は、その『俺なんか』に、意見求めてることになるじゃないか。

もっと自分に自信を持ちな。

これから『俺なんか』禁止だから、言ったら罰金な、あはは」



「は、はい。すいません」


義兄さんはピアノの椅子からゆっくり立ち上がると、

よいしょっと俺の前にしゃがみ込んで、にっこりと言った。


「・・・じゃあさ、星也、この曲に歌詞つけてみてよ。

日本語でも、英語でもいいからさ。

この曲からオマエが感じたもの書いてみて。


ほかの人がこの曲を聞いて、どんな詩をつけるのか。

ちょっと興味がかるからさ」


「へっ?!」


めちゃくちゃ焦っている俺の手に、ホイと楽譜を渡して、


「じゃ、たのんだぞ。お腹すいたなー」


と部屋を出ていってしまった。

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