第11話
ロスでの撮影は順調に進んでいた。
ユウカがナイトと一つ屋根の下に住むようになって数週間。
だいぶ慣れ、彼の生活リズムも把握できるようになってきた。
ユウカは星也とともに、ほとんどの時間をナイトに同行していた。
信じられないことに、彼は、どんなに疲れていても睡眠時間がとても短かった。
そのくせ撮影の合間の休憩時間で急に眠りに落ちたりする。
長年の不規則な時間帯の中でつちかった技術なのだろうが、眠りがとても深いのか、短時間で復活できるらしい。
さらに、彼は食事は夜しかちゃんととらなかった。
朝は特製のジュースのみ、昼もフルーツや飲み物や軽食程度だった。
そのくせ毎日のトレーニングも欠かさない。
「ねぇ、星也君、日本のトップスターってみんなあんなにストイックなの?」
星也に聞いてみた。
「いや、よくわかりませんけど、
義兄さんは特別だって、周りの人は言ってましたよ。
表現者として常に完璧を目指しているから、義兄さんはどれも手を抜かない人だって。
俺も噂でしか聞いたことなかったんですけど、
義兄さんと一緒に生活してみたら、
マジで本当だったから、びっくりしてるんです」
「ふーん。そうなんだ。
私もハリウッドスターでもあそこまでストイックな人見た事ないから、日本のスターはみんなそうなのかと思ってしまったわ。
ナイトは本当に特別なのね・・・」
「でも、義兄さんが言ってましたよ。
僕は特別なんかじゃないって。
人一倍努力しないとダメなんだよ、正直疲れるよって。
自分は表現者という仕事を選んだから、期待を裏切れないからね。って。
すごくないっすか?」
ユウカも、ただ感心するしかなかった。
そして、そんなナイトが好きになる女性はどんな人なのかとても興味がわいた。
「ねぇ、あなたのお姉さんはどんな方?
あのナイトさんが選んだんだもの、やっぱり素敵なかたなんでしょうね」
「姉貴ですか?姉貴は・・・ごくごく普通の一般人ですよ。
特に美人でもないし、色気もないし、恋愛経験もあまりなさそうだし、泣き虫で・・・
何だろ、姉貴の魅力って。
義兄さんの周りには女優さんやら、モデルさんやら、よりどりみどりだろうに、
なんで姉貴だったんだか、俺にはさっぱりわからないっす」
星也はまじまじと考えながら首をかしげていた。
まぁ、姉弟なんてそんなものかもしれない。
姉の魅力なんて、弟はわからないものだろう。
ユウカにも兄がいた。確かナイトと同じ年だと思う。
兄はニューヨークでサラリーマンをしているが、どういう訳か女性にモテる。
しかし、兄の魅力なんてやはり妹のユウカには全くわからなかった。
小さなころから自慢の兄ではあったが、それぐらいだ。
「てか、ユウカさんは、結婚してるんですか?
・・・あ、すいません。
こういうことって、女性には聞いちゃいけないんでしたっけ」
星也がしまったという顔で頭を下げる。
(この子は、本当に憎めないな。大学生ってこんなに可愛いんだっけ?星也が純粋なだけ?なのかな)
「あはは、大丈夫よ、私は。
何でも聞いてくれていいよ。
もちろん、独身よ。当然でしょ?」
ちょっと意地悪して星也をにらみつけてみる。
「あ、すいません。そうですよね。
って言うのも、失礼なのかな?
ほんと、すいません。あわわ。
でも、ユウカさん、すごく美人だし、頭もいいから、きっとモテるんだろうなって・・・」
「うふふ、あら、星也君、ありがとう。
褒めてくれてるのよね。
そうね、モテないこともないけれど、私、理想が高いの。
しかも、恋愛下手なのよね。
仕事人間だし、性格もこれだしね、あはは」
「・・・ユウカさんは、素敵だと思います、マジで」
なんだか、赤くなりながら星也がぼそっと言った。
「サンキュー。ところでさ、星也君は将来何になりたいの?」
「え、俺ですか?うーん。
親の勧めで高校からアメリカに来ているけれど、何になりたいとかずっと無くて。
でも、義兄さんみていたら、義兄さんみたいになりたいなって。
あぁ、スターになるとかじゃなくて。
俺なんてそんなの無理だし。
その。義兄さんみたいな男になりたいなぁって、最近思います。
あと、ユウカさんみたいな仕事も、
義兄さんみたいな人をサポートする仕事もかっこいいなって思います」
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