第5話

ユウカは目の前にいるナイトを控えめに観察していた。


長年アメリカにいるせいで、日本の芸能界についてほとんど知識がなかったが、ナイトの名前はアメリカやヨーロッパでもそこそこ有名だった。


実績的にはハリウッドスターと並んでも引けを取らないだろうと、資料を見て直観し、上司に自分からこの仕事を引き受けたいと申し出た。


ナイトについての経歴や私生活の下調べはもちろん、ほとんどの情報はすでに頭の中に入っていた。


いま、本人を初めて目の前にしてみると、思っていた以上のオーラに正直驚いていた。


サラリとした黒髪、スリムな黒いパンツに白い丸首のシャツ、黒い革のジャケットと何の変哲もない恰好だったが、

さすがに日本でトップアーティストと言われるだけあって、一分の隙も無いそのたたずまいは、ユウカの期待感を湧き上がらせた。


(この人、ものすごくゴージャスだわ。

もしかしたらアメリカでも大成功するかもしれない。

とてもエキサイティングな仕事になるかもしれない。

ハリウッドスターでさえ、これほど洗練された印象をあたえる人はなかなかいないもの。

でも・・・さっきお会いした奥様は素朴な感じで、

ちょっと意外だったな)


このナイトと月子が夫婦であることが、不思議な感じがしてならなかった。


ナイトにはもっと、華やかな女性が似合うような気がするし、

彼の奥さんも豪華で情熱的な雰囲気の女性だとばかり思っていた。


ユウカは、タレントの私生活に口をはさむつもりは無かったが、

大スターは私生活も含めて完璧でなければならないと思っていし、今までの経験上それを確信している。


もし、ナイトが本気で世界進出を狙っているのならば、

それに見合った形に導くことも、エージェントとして重要な仕事でもあると思っていた。


(まぁ、ナイトさんがどれだけの器なのか、じっくり拝見させていただくとするわ。

彼がホンモノなら、おのずと成功はついてくるだろう。

今まで顧客だったハリウッドスター達を成功に導いたように、私は自分の仕事をするだけなのだから・・・)



「あの、ナイトさん、よろしかったら、このファイルをお読みください。今回の仕事の詳細をまとめてありますので」


ユウカは分厚いファイルをナイトに渡すと、再び百合の香りが舞った。


「ありがとう。機内で読んでおくよ」


受け取ったファイルを星也に預け、


「じゃあ、行こうか。そろそろ搭乗だろ?」


ナイトがゆっくりとソファーから立ち上がった。

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