第4話
僕は月子と別れたあと、出発ラウンジで星也とコーヒーを飲みながら搭乗を待っていた。
月子の弟星也のまだ少年の面影を残す無邪気な横顔。
ヒョロリと背が高く、月子と同じように華奢な線をしている。
顔も月子によく似ていて、
(こいつ、男にしては相当かわいいのかもな)
などと、よく喋る星也を見ながらぼんやり考えていた。
「……義兄さん、いま姉貴のこと考えてたでしょ?イヒヒ」
「……えっ?あ、ああ、仕事のことだよ、なんだよ星也」
僕は図星を付かれ、飲んでいたコーヒーをこぼしそうになった。
「義兄さんが『ついてこい!』って言えば姉貴は一緒に来たと思うんだけどなー」
(子供っぽい顔をして、コイツはなかなか大人びた事を言うな。あ、子供だから、ズバッと言えるのか)
「・・・あのなぁ星也。
オマエに夫婦の問題がわかるのかぁ?
僕と月子は大丈夫なんだよ!
星也が思っているほど、そんな、ベタベタしてるわけじゃないんだぞ。
お互い色々やることもある訳だしな、ま、あれだ、
オマエは向こうでは僕の付き人なんだから、義弟だからって甘やかさないからな」
なぜか、イラッとして星也に威厳を見せるように話してみるが、説教をくらっている本人は、
「はいはいわかりました。ふふふ」
と、ニコニコしながら人の顔を見ている。
(ったく、姉弟そろって憎めないから、参ったな)
正直、これから数か月間、社会勉強も兼ねて星也をそばに置く訳だが、この屈託のない義弟がいることでだいぶ仕事の緊張がほぐれそうな気がしていた。
これから、おそらく体験したことのないプレッシャーの中で過ごすことになることは覚悟していた。
ふいに、強い香水の香りがした。
「お待たせしてすいません」
と、一人の女性が声をかけてきた。
僕は一瞬、知り合いの女性かと思い、
(……だれだっけな?思い出せない)
と考えたが、間髪いれずに、
「私は、今回ロスに同行させていただきますユウカ・モトハシと申します。
どうぞよろしくお願いします」
ユウカが失礼しますと言いながら、星也の隣の席に腰を下ろした。
強すぎる百合の香りのような香水に、僕は一瞬目まいがしそうになりながら、
(海外のエージェントって、女性だったのか。知らなかった。
まあ、どっちでも良いけど、しかしこの香水、強すぎる、
何とかならないかな、しかたないか)
アサトは、サングラス越しに顔色を変えず、失礼の無い程度にビジネススマイルをつくると、
「よろしくお願い、します」
と彼女と握手をし、隣にいる星也を紹介した。
彼女はハリウッドスターを何人も顧客として抱えているらしく。
今回、日本人であるナイトの仕事を引き受けたのはとても光栄に思っいて、通常、日本人の仕事は引き受けないのだが、
ナイトだからとういうことで特別に仕事を引き受けた。
とまあこんなかんじのことを色々話していた。
(ようするに、彼女はそうとうの敏腕だということなんだな)
今回の僕の仕事を円滑に進めてくれれば、僕には彼女がどういう人間だろうがあまり重要なことではなかった。
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