第53話

おばぁは、お茶目にウィンクすると、


「わかっとりますよぉ、旦那様に関することは、わたしら夫婦、今までだってひとっことも口にしたこともありませんよぉ」

と笑った。


「旦那様がぁ、何なさってる方かも知らんのですからぁ、ただ、知ってるのは、東京の、せれぶさん、ちゅうことだけですからねぇ」


そう言うと、おばぁは深々とお辞儀をして去って行った。


「あはは」


アサトは大声で笑っていた。


「ごめん、おばぁに朝の掃除断るの忘れてた」


と、まだ笑っている。


月子もクスリと笑いながら、


「あーびっくりした。でも、素敵なおばさんだね」


と言いながら、シャワー室に消えていった。


彼が用意してくれた朝食を食べ終えると。


「さぁて、今日は何をして過ごそうか?」


と彼が聞いた。


月子は考えてみたが、よくわからなかった。


「海で泳いでみたい…かな」


「あとは?」


「…うーん、アサトさんは?」


彼はしばらく考えてから


「…一日中エッチ」


途端に、月子の顔が真っ赤になる。


「あはは、うそだよ。半分は本当だけど。…僕は月子を撮りたいな」


「わたしの?写真を?」


意外そうに彼女が聞いた。


彼はテーブルに肘をついてニコッとしながら、


「僕は、仕事の都合で日焼けできないんだ、でも、月子の追っかけしたい。カメラ小僧」


「水着とか洋服は東京から手配済みだから、色々クローゼットに入っていると思うよ」


(相変わらず、すごい手回しの良さ)


月子はもう驚かなかった。

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