第54話

電話が鳴っていた。

クミは寝ぼけながら電話に出た。

「ふぁ~い」

「私、月子」

クミは一気に目を覚ました。


「月子、あんた一体どこに行っちゃったのよ、超イケメンに連れ去られて、心配してたんだよ」


(…あ、クミちゃん、やっぱり私の事尾行してたんだ)


なんとなくそんな気がしていたが、まさか本当だったとは。


「ところで、大丈夫だったの?まさか、あのイケメンとまだ一緒?」


「…う…ん」


「キャーキャー」


クミが電話口で大騒ぎしている。予想通りのリアクション。

(声大きい…耳が痛い)


「とにかく、今夜帰るから心配しないでね。楽しくやってるから」


「うんうん。土産話たのしみにしてるよ」


彼が隣の部屋から、

「友達?」

と聞いた。


「うん、近所に住んでる親友。すごい心配性だから電話しておいたの」


その後、月子は黒いビキニにパレオを巻き、彼は全身黒づくめ、サングラス、帽子でビーチに行った。

ビーチにも日除け小屋があり、長椅子もあった。完全なプライベートビーチらしく、隣のビーチとは石垣と木々で仕切られている。


「月子、日焼け平気?」

アサトが少し心配そうに言った。出来れば焼いて欲しくないと思った。


「…わかんない、子供の頃以来、焼いたことないから」

ケロリとして月子が答えた。

じゃ、ちょっとだけ行ってくるね。と波打ち際に走って行った。波に足をつけながら、パレオを頭にかぶせ、はしゃいでいる。

僕は、望遠カメラで彼女を撮り続けた。

グラビアモデルのように美しい。いや、それ以上だった。


彼女は胸あたりまで浸かり、しばらく泳ぐと、満足げに戻ってきた。


「きれいな海、青とか黄色い魚がいたよ、気持ちよかったー。ありがとう」


と、アサトに何か手渡した。

「はい、お土産」


それは、黒蝶貝のようだった。大きくて厚みもある。

「ありがとう」


その後、近くの浜辺や森を散歩しているときも、アサトはファインダーから目を離さなかった。月子の仕草一つ一つが絵になる。

屋敷のプールでも月子は泳いだ。

もうすぐ夕焼けに染まる。


やがてビーナスのようにプールから上がってきて、彼の腕に飛び込んできた。

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