第50話
「あなたの香りがする。少し甘くて…男らしい香り。この香りは何?」
そして、月子は自分でも信じられなかったが、浴衣の隙間からのぞく白く逞しい胸に口づけし頬をよせた。
「…この香りは、僕のオリジナルなんだよ。好き?」
「ええ。大好き…なんだかホッとする」
僕は彼女の細い指の感触と熱い唇に触れられ鼓動が高鳴ってゆくのを感じていた。
時々こうして垣間見せる彼女の大胆な一面が嬉しかった。
「あぁ…君って本当に不思議だ。僕は君の前だと一人のただの男に戻ってしまうよ」
「…わたし、あなたのこと、何も知らないから…本当は…私とは全く住む世界か違う人なんだよね…ごめんなさい」
「…僕は、正直に言うと、僕の事を全く知らない君に最初は驚いたよ、でも、だからこそ、僕も君も今こうして一人の男と女として向き合えている。僕はそれがとても嬉しいんだ」
彼女の首筋から綺麗な鎖骨を指でなぞる。
(…彼女が愛しい)
僕は無言で月子の手をひくと、部屋に入った。
二人は同じだけ求め合った。
月子は彼のすべてを記憶するかのように。
(この旅が終わったら、もう二度と彼に会う事はない。私とは住む世界が違いすぎる)
やはりそう思っていた。
だから、彼の全てを覚えておきたかった。
彼の声、話し方、笑顔、癖、指の動き、愛し方ひとつまで全部。
多分、月子はもう他の誰とも付き合うことは出来ないと思っていた。
もし付き合ったとしても、こんなに愛することは出来ないと。あまりにも強烈な出会いと想い出を知ってしまった以上、誰もアサトの代わりになんてなれない。
だから、彼女はアサトとの数日間を、一生分の愛の記憶として憶えておきたかった。
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