第47話

彼女の意外な申し出に、僕は少し驚いた。


夕食は、近くの知り合いのシェフに来てくれるように頼んであったが、冷蔵庫には食材がひととおりそろっていた。


「君はゲストだから、ゆっくりしていてくれればいいんだよ。シェフを呼んであるから」


「私、こんなに色々していただいて、何かお礼がしたいの。たいした物は作れないけれど・・・」


僕は少し考えてから、


「お礼に、なんて考えて欲しくないから、一緒に作ろうか。なんか楽しそうだ。君の料理食べてみたいし」


二人はキッチンに並び、仲良く食事の支度をした。彼女は料理が得意だった。

その手際の良さと見栄えはプロ並みで、彼はほとんど役に立たず、月子が料理する姿をワインを片手に楽しんで見ていた。


彼は料理について細かく聞いてきた。色々なことに関心があるらしい。月子は、彼に話しかけられながら料理をすることを心から楽しんでいた。


簡単なサラダと少しの冷製パスタ、メインは琉球豚の角煮に地元のネギソース、あとは沖縄豆腐を辛くアレンジしたものや、つまみのようなものが数点出来上がると、


(もし…こんな子がお嫁さんだったら、きっと楽しいのかも知れないな)


普段は考えもしないような思いがよぎり、僕はグラスのワインを一気に飲み干した。


食事をどこで食べたいかと彼女に聞いたところ、和室で食べたいと言った。


「なんだか落ち着くから」と。


「じゃぁ、僕が料理をテーブルに運んでいる間に、軽くシャワーに入っておいで」


月子は彼の言葉に甘えて、素早くシャワーを浴びた。沖縄の潮風と料理を作って汗だくになっていたからありがたかった。

脱衣所には女性用のバスローブと浴衣が用意してあり、ローブで食事というのも変だと思い、渋紅の浴衣を着た。


和室は、暖色系のダウンライトが灯され、雰囲気良くテーブルに食事が並べられていた。


(一流旅館みたい・・・アサトはこういうセンスも良いんだな・・・)


今までまるで出会ったことのない違う世界の人だった。


(もし、こんな人が恋人だったら…ないか…)


月子は考えを途中で打ち消した。


すぐに、彼が冷えたシャンパンを持って入ってきた。別のシャワー室で汗を流してきたようで、モダンな黒い浴衣を着流している姿は、華があり映画俳優のようだった。

月子は自分が面食いだと思ったことはなかったが、ついついボーっと見とれてしまう自分に焦っていた。

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