第46話
家は海に向かって半円形に建てられており、室内はさらに月子を驚かせた。
「この家はね、三日月みたいだから『クレッセントハウス』と呼んでいるんだ…月の家。君の名前とおなじだね」
(クレッセントハウス…)
月子はちょっと嬉しかった。
一階には開放感のある大きな吹き抜けのリビング、20人は座れそうなダイニング、琉球畳が美しい和室もある。
そして主人室と広いアイランドキッチン。
二階の廊下はぐるりとリビングを見下ろすようにめぐらされており、ゲストルームが3つ、すべてオーシャンビューに配置されている。
各部屋にはトイレとバスルームが完備されていた。
部屋を案内されながら、
「高級リゾートホテルみたい。本当に素敵」
月子はため息をついた。
「最初はもっとシンプルにしたかった、隠れ家的なね。
けれどゲストの事を考えたら二階もつくっちゃった。
僕はだいたい一人で来るから、基本的には一階しか使ってないんだけどね」
「お仕事で疲れたら、ここでリフレッシュするのね。私もいつかそういう場所を持ちたいな。目標にしなきゃ」
僕は月子のこういうふとした言葉にハッとさせられた。
たいていの女性は、金や権力や知名度のある男にぶら下がりたがる。
少なくとも彼の回りの女性達、いわゆるセレブ指向の女性達は大抵そうだった。それが見え見えで近づいてくる女性も多い。彼が本気の恋人を持たなくなってしまったのもそんな女性達を見すぎて来たからもしれなかった。
海にゆっくりと日が沈んでゆく。真っ赤からゴールドと濃緑に変化してゆくのをポーチのソファーで寄り添い、黙って眺めていた。
「疲れただろう?そろそろ夕食にしよう。僕はね、基本夕食しかちゃんと食べないんだ。だから僕に合わせているとみんな食事を取り損ねてしまう。月子は遠慮しないで好きなときに食べて」
(そう言えば、食べていないかも)
月子もあまり沢山食べるほうではなかったが、今日はクラッカーと機内で出されたサンドイッチとフルーツ以外食べていなかった。けれど、不思議と空腹は感じていなかった。
色々なことがありすぎて、刺激が多すぎて、心身ともにびっくりしているのかもしれないと彼女は思った。
「アサト…は、どんなものが好き?もし、良かったら、私が夕食を作ってもいい?」
月子は遠慮がちに彼に聞いた。
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