楽園

第44話

車は市街地を抜け、南に走っていく。那覇はまだまだ暑く、夏休み気分の観光客でにぎわっていた。


「アサトさん、これからどこにいくの?」

月子はまた聞いた。


「…まだ秘密」

にんまりと笑っているのがサングラス越しでもうかがえる。


もうすぐ夕方だというのに、沖縄の日は長く、空は青く澄み渡っていた。


「月子は沖縄はじめて?」

アサトは聞いた。


「いいえ。仕事で那覇だけは来たことがあるんですけれど、観光とかしたことなくて」


「アサトさんは、良くこちらには来るんですか?」


「うん。時間ができるとたまに来るよ。僕は・・・沖縄生まれだからね。何だかホッとするんだよね、ここって」


(へぇ、アサトさんは沖縄生まれだったのか、そういえば沖縄の人って、彫りの深い綺麗な顔立ちの人が多い気がする)


「ところでさ、月子」

彼が真顔で言う。


「はい?」


(なんだろう・・・)


「そろそろ、敬語はやめないか?名前、呼び捨てでかまわないから」


「・・・はい。やってみます。じゃなくて・・・やってみる・・・よ?とか?」


「あははは」

彼は大笑いをしていた。


20分ほど走っただろうか、突然、林の向こうに真っ青な海が見えた。


月子は興奮した様子で、


「あ、海が見えた!綺麗ですね」


嬉しそうな彼女を、アサトは目を細めて見つめていた。


車は、南国独特の林の中に入っていくと、遠くに門らしきものが見えてきた。


彼はドライバーに、

「おじぃ、ここからは、歩いて行くよ、どうもありがとう」


おじぃと呼ばれた男性は、ニコニコしながら、


「そうですか、では、いってらっしゃいませ」

そう言って二人を下ろし、走り去って行った。


「さあ、行こう」


彼は月子の手をとって森のなかを歩いてゆく。海の香りと小道を抜ける風が心地よい。

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