第42話

彼女は雲海をみながら、何かを考えているようだったが、いつのまにか眠ってしまったようだ。

僕はブランケットを借り、そっと彼女にかけた。


(この旅行も少し強引すぎたかもしれない。彼女は、とても疲れているはずだ)


しかし、月子が自分を見ても何の反応も示さないのには、さすがに驚いた。

本当に知らないのだろうか。

あるいは、気づいていても、そういうことには興味がないのかもしれない。


だいたいの女性(あるいは男性)は、アサトと出かけたり、食事をしたりして、周囲の注目になることに多少なりとも優越感を感じていた。

特にデートともなると女性は、普通ではありえないほどゴージャスに着飾り、周囲に自分をアピールする。自分は選ばれた人間だと。

月子にはそんな素振りは微塵も見られなかった。


彼は普段、女性を使い分けていた。言い方は悪いが。

食事をしたり、飲み歩いたり、寝たり。

しかし、彼はその女性達の誰とも付き合っているつもりはなかった。


「僕は、その日の気分で食事する相手を決めるし、寝たければそれも気分で決める」


普通ならとても身勝手でありえない冷たい言葉だが、彼が言うと許されてしまう。誰に何と言われようと彼は気にもせず、そのライフスタイルをむしろアピールしていた。

たまに女性と旅行もした。海外だったりすると、すぐに(お忍び旅行)などと噂になったが、それについても、否定も肯定もしなかった。否定すれば相手の女性に失礼だったし、肯定するのもまた違っていたから。


(言いたいやつは言えばいい)


去りたければ追わなかったし、誰も責めなかった。


月子との事もすぐにかぎつけられるのは時間の問題だろう。


その時、彼女はどう思うのだろう。どう守ればいいのか。

彼女は騙されたと思うような女じゃない。

一人で深く傷つき、嵐が過ぎ去るのを黙って絶える女性だと思える。


僕は、安心した顔で眠る彼女の顔を見ながら、


(とても罪深いことをしてしまったのかもしれない。けれど…)


しかし、今は彼女と一緒にいたい気持ちは本当だったし、できればずっとそばにいて欲しいとさえ思っていた。


こんな気持ちは、本当に初めてだった。


いつの間にか、彼も短い眠りに落ちていった。

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