第29話

ラウンジはさらに暗く、良い雰囲気だった。ボックスのペアシートに座り、二人は色々な話をした。

彼は何杯か飲んでいたが、特に酔ったそぶりもなく月子を見ていた。


彼女はその視線に気づいて、

「アサトさん、お酒、強いんですね、すみません、私、少し酔ってます。酔うとおしゃべりになるみたいで・・・私、うるさくないですか?」


「僕ももう君に酔っているよ、なんちゃって・・・」


彼はおどけて見せたが、月子は心臓が飛び出そうになった。さらりとキザなことを平気で言ってもサマになる謎の人。

彼は突然真顔になり、ひと呼吸つくと、サングラスをゆっくりとはずした。


暗闇でぼんやりだったが、月子は初めて彼の顔をまじまじと見た。


「・・・アサトさん、綺麗・・・まるで・・・外人さんみたい」


月子がもっと良く見ようと顔を向けると、彼がその唇をふさいだ。


彼女は抵抗することもなく自然に目を閉じた。長い口づけのあと、恥ずかしそうにうつむき彼に肩を抱かれ寄り添っていた。


(わたし、もうだめだ。今夜は軽い女になってもいいよね)


そんな彼女の心の声が聞こえたかのように、


「部屋へ行こうか?」

彼がそう静かに言った。


ここで、断れる女性なんているんだろうか、それぐらい彼は魅力的で自然な流れだった。

月子は小さくうなづいた。



ラウンジを出てさらに上のスイートに向かう専用エレベーターを降りると、いきなり部屋になっていた。


(これって…ペントハウス?)


部屋はいくつも分かれており、照明はところどころしか点いておらず、キャンドルが灯してあった。


「月子さん、言い訳はしないよ。下心見え見えの狼のつもりはなかったんだけど、部屋は取ってあったんだ。君が来てくれても来てくれなくても。僕は煌々とした照明があまり得意ではなくてね。だからサングラスも、手放せないんだよ。でも、部屋が暗すぎて不安だったら言って欲しい」


(そうだったんだ、だから彼はいつも暗くして、サングラス・・・)


月子はうつむいて言った、

「アサトさん、大丈夫です。私は・・・自分の意志でここに来ています。あなたに会いたかったから今日来ました。私も暗い方が落ち着きます。ちゃんと見えない方が・・・」


「ありがとう。勇気いったよね。怖い思いはさせないから」


彼は月子の手を引くと隣のベッドルームに進んだ。

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