夜景と星と

第28話

案内された個室はほの暗く、東京の夜景が見事に眼下に広がっていた。


(わ。きれい・・・)

月子は言葉を失い、口元に手をやった。


彼はそのリアクションを見ると満足そうに微笑み、ここにして良かったと思った。


「席は、気に入ってもらえたかな?」


「はい。こんな素敵なレストランは初めてです。夜景が美しいですね」


席は窓に向かって半円形になっていた。

最初の食事で面と向かってでは、彼女が落ち着かないだろうと思い、相手の横顔がたまに見えるぐらいのこの席がいいと思ったのだ。


彼は左利きだったので、月子の左側に座り、


「お酒は大丈夫?」

と月子に聞いた。


「はい」

彼女はそう答えた。(むしろ、強いほう)だとは言わないでおいた。


「僕も車は人に任せて、君と乾杯しようかな」


二人は最初にシャンパンで乾杯し、彼が言った。


「昨日の今日なのに、来てくれてありがとう。相当勇気がいっただろうね。嬉しかったよ」


「アサトさんこそ、会ったばかりの私をこんな素敵な所に連れてきてくださって、ありがとうございます。わたしったら本当に図々しくて、申し訳ないです」


月子の左に座っている彼は相変わらずサングラスをかけたままでいる。不思議と違和感はないが、月子はまだ彼の顔をはっきりと見ていなかった。


次々と料理が運ばれて来て、あっという間にテーブルが埋め尽くされた。


「ここの照明は絶妙でね、料理と客の手元のみにスポットが当たるように配慮されているんだ。夜景と料理を最大限に引き立るためにね」


(ほんとうだわ)

彼女は、こんなに洒落た店には来たことがなかった。


「本当に素敵なところですね。料理もとても美味しいです」


僕は夜景や食事より、ガラス越しに映る彼女に見とれていた。月子は良く食べ、笑い、適度に話をした。


たいていの女性は、すぐおなかが一杯になった、太ってしまうからと言って、殆ど食べない。


彼は日頃から夕食の時間を大事にしていた。

一日のうちで、最もリラックスできて楽しい時間にすることを念頭においていたから。

だから、夕食を一人で食べることは滅多に無かった。


月子は昼のトーストを友人に食べられてしまった話、今日はバレエをしてきた話などをした。


僕はそれで納得がいった。

彼女の均整のとれた美しさはバレエによるものだったのだと。


「僕もトレーニングの中でストレッチをするんだけど、今度、バレエ教えてもらおうかな、バレエはダンスの基本だとも言うし、興味あるなぁ」


「私で良ければ喜んで。ただし、バレエでは私、鬼コーチになっちゃうかも」

と笑った。


楽しい食事はあっという間に終わり、二人は隣のラウンジに移動した。

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