第26話
車に乗った月子は緊張していた。
外車のシートベルトのはめかたがわからずにいると、彼が体を傾けとめてくれた。
ふわっと髪から良い香りがして、長い腕が月子の前を横切る。
「あ、ありがとうございます」
月子はドキドキして、まともに彼の方を向けずに俯いてしまう。
「月子さん、慌てさせてごめんね、少し道が混んでいてね。店の前に車をとめたら、ガラス越しに君が見えたから電話したんだ。君が店から出てきたと思ったら、どっかに消えちゃったから一瞬焦ったよ。あはは」
彼が笑い、月子もつられて笑ってしまった。
「ごめんなさい。白い車って、てっきり、ライトバンのほうだと思い込んでました。思いっきり中をのぞき込んで、アホでしたね」
「そんなことないよ、大きな荷物を抱えて、家出少女みたいで、なんか可愛かったよ」
そう言って彼は月子の頭をクシャリとなでた。
(わっ)
月子の心臓は飛び出しそうだった。
また会えた喜びよりも、緊張が上回っている。
「一応、店は予約してあるんだけど、中華は好き?」
「え?ええ。私ほとんど好き嫌い無いんです。中華は大好きです」
「それなら良かった。お腹すいたから急ごうか」
そう言うと、彼は巧みにギアチェンジをして加速した。
店までは20分ほどで到着した。
どこかのホテルの地下駐車場らしい。車を滑り込ませると、ドアマンがそれぞれのドアを開けてくれる。
彼は手慣れた様子でキーを預けると、彼女の手を取りエレベーターで昇って行った。
(手…つないでるっ。これって、普通だったっけ?)
月子はデートがどんなものか、久しぶり過ぎてすっかり忘れてしまっていた。
ガラス張りのエレベーターはグングン上がり、ずいぶん上の階で止まった。
ドアが開くと、
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
ものごしの上品な従業員がにこやかに頭を下げる。
つい癖で、月子も頭を下げた。
(月子さんは、こういうところがお高くとまっていなくてとても可愛いな・・・)
アサトは満足げに彼女を見ていた。
彼はクロークにジャケットとコートを預け、彼女の薄手のショールも肩から外した。
一瞬、月子は肩が露わになったせいで心もとない顔をした。彼はそれを察し、
「クーラーが寒いといけないから、やはりショールは持って行こう」
と言ってくれた。
月子は、
(彼はとっても上品で女性の扱いが手慣れている。ものすごく気がまわるし、まさかこんな人だったなんて)
バイカー姿からはとても想像できなかった。
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