見知らぬ人

第25話

月子は、白いライトバンに近づくと、中を恐る恐る覗いていた。

ガラスには真っ黒なスモークが貼ってあり、中は全く見えない。


(あれ…中に乗っていないのかな?)


すると、その前にとまっていた外車の運転席が開き、ゆっくりと男性が降りてきた。


男はかなり長身で少しウェーブのかかった黒髪、黒いジャケットに白いシャツ、黒い大きなサングラスをかけている。


辺りを歩いている人、特に女性達の視線が一斉に男に集中する。


男は気にもとめずにライトバンの後ろのほうでオロオロしている彼女のほうに歩いていった。

月子はまだ男性に気づいていない。


男は月子に近づくと、少しかがんで耳元でささやいた。


「そっちじゃなくて、こっちだよ」


周囲からは、まるで首筋に挨拶のキスをしたように見えただろう。


聞き覚えのある声とコロンの香りに、月子がキョトンとしていると、彼女の手をとり、大きなバッグを自分の車のトランクに閉まった。


そして、助手席のドアを優雅に開けると、


「どうぞ、お嬢様」


と言って彼女を乗せた。

ドアを慎重に閉め、運転席にまわると、あっと言う間に走り去っていった。


周りの女性たちはヒソヒソと何やらざわめいていたが、街はまたいつもの雑踏に戻った。


その一部始終を見ていたクミと宗一は、呆気に取られて、すっかり興奮した様子で、


「みたぁ?今の。カッケー、いいなぁ。私も誰か拐ってくれないかなぁ」

と呟いた。


「確かに、すごい格好良すぎの登場だったね。月子ちゃんの運命やいかに…だな」


宗一がそう言うと、


「もう!何冷静に分析してるのよ。あんなスマートな登場、普通じゃないよ!」

なぜか少しイラついた顔をして宗一をチラリと横目で見る。


「IT関連の社長か、金持ちの息子か、凄腕ホストと睨んだぞ、あんな外車見たことないし」

彼は分析を続けている。


「ホスト…それは困る。でもさ、月子も子供じゃないんだし、昼間会った時には完全に恋する乙女の顔してた!すでに手遅れよ。しかし…イイ男だったわー」


クミ達は男をまじまじと観察していたが、なぜか危険な感じがしなかった。


「さーてと…私達も負けずにデート行こ。宗一のおごりだからね、お腹すいたー」


宗一はやれやれと笑い、二人は楽しそうに人混みに消えていった。

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