第24話

バレエのレッスンが終わると、月子は事務作業と掃除を済ませ簡単にシャワーを浴び、例のデート服を着た。そして、いつもより少し丁寧に化粧をした。


彼女はよほどの事がない限り、バッチリ化粧はしない。普段の手入れも適当、香水もつけない。

今日はこれでも頑張ったほうだと、鏡を見て無理やり自分を納得させた。


彼女は軽いトレンチを羽織ると、服装とは不釣り合いな大荷物を抱え、8時15分過ぎに約束の店に到着した。


この店は何度か利用したことがあるが、カフェにしては値段が高めなので、普段は比較的空いている。

しかし土曜日の夜ともなると、ほぼ満席だった。


店員さんに待ち合わせであることを告げると、店の窓際に案内され、コーヒーを注文した。

彼はまだ来ていないようだった。


急に緊張がこみ上げてくる。


(あー、ドキドキしてきた。どうしよう。彼は私に気づくかしら、ただの食事だもの、冷静に冷静に…)


窓の外に見えるO駅の街並みは、相変わらず華やかだった。

いつもはほとんど素通りするだけだった月子は、改めて街を楽しそうに歩く人々や通り過ぎる車をぼんやりと眺めていた。


コーヒーを半分ほど飲み終えたところで、携帯が鳴った。

彼からだった。


「もしもし…」

月子は小声で電話をとる。


「外に、白い車が見える?」


「はい。見えます」


少し前から店の前に白い車が留まっているのを月子は気づいていた。


「ごめん、思ったより店が混んでいるみたいだね。悪いけど、車まで来てもらえるかな。ゆっくり出ておいで」


月子は、言われるままに会計を済ませると、大きなバックをかかえ、停まっていた白いライトバンに近づいていった。



クミと宗一は、その様子を店の奥の席から見ていた。

好奇心旺盛なクミは、内心、月子が心配でならず、宗一を引きずって先に店で見張っていたのである。


「ナンパ男がどんな顔をしてるか、確認しなきゃ」


ところが、月子が電話で誰かと話しているかと思ったら、店を出て行くではないか。


慌てて会計を済ませ、月子に見つからないように歩道に出た。

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