第19話
「・・・はい」
息を切らせた様子で月子は電話に出た。
「月子さん、メールありがとう」
電話の声ですぐに彼だとわかった。
穏やかで少し低い声。でも、どこか明るさのある声。
「あっ、いいえっ、すいません」
まさか、こんなに早く返事が来るとは、ましてや電話がかかってくるとは思ってもいなかったので、月子は慌てていた。
「あはは、何で謝るの?連絡くれて嬉しかったよ。ありがとう。・・・あのあと眠れた?」
月子には電話の向こうで笑っている彼の笑顔が見えるような気がした。
口元から上は想像だったが。
「・・・はい。さっきまでぐっすり寝てました。アサト・・・さんは?」
「僕は朝に帰宅するのは、慣れているから、少し寝て、起きて、トレーニングして、シャワーした・・・で、君に電話している」
彼の言葉は、一つ一つ月子をドキリとさせる。
「えっ、起きてトレーニングですか?!実はスポーツ選手とか・・・だったりしますか?」
月子は努めて明るく聞いた。気持ちの高鳴りを悟られないように。
「あはは、残念ながらスポーツ選手じゃないよ。色々な仕事をしているから、体づくりは基本なんだよ。
トレーニングは日課でね、体を動かさないとエンジンがかからない。頭も働かない。僕にとっては仕事前の気合入れみたいなものかな」
(えっ、全然寝てないんだ・・・なんか、アサトさんてすごい人なんだなぁ)
朝の苦手な月子には驚きだった。
「アサトさん、これからお仕事なんですね、すみません、お忙しいところ、わざわざお電話いただいて」
僕には彼女の女性らしい心遣いが新鮮で嬉しかった。
自分のいる世界とは少し違う、ごく普通の女性。
「あの・・・突然だけどさ、今夜8時には仕事終わるから、もし良かったら、迎えに行ってもいいかな、・・・食事でもしない?良かったら」
(はいっ?!今、食事に誘われたの?わたし!しかも、今夜?)
「あ、ありがとうございます。ええ、喜んで。
私、今日はO駅に用事があるので、アサトさんも都心にいるんでしたら、夜8時過ぎにどこかで待ってます」
(私ったらすごい積極的、大丈夫かな?)
「そうなんだね、ありがとう。その方が早く会えるね。
それじゃあ、O駅のエドモンズっていうカフェ知ってる?そこで待っててくれるかな?じゃ、またあとで」
電話を切ると、月子はしばらく茫然としていた。
(・・・うわぁ。さっそく食事に誘われた!
しかも即OKしちゃった!なんて軽い女なんだ!でも・・・何着ていけばいいのかな!?)
月子は慌てて近所(徒歩五分)に住む親友のクミに電話をかけた。
「クミちゃん、わたし食事するの!男の人と。どうしよぅ・・・」
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