約束そして
第15話
彼女は信号を右折し、川沿いのバイクを追いかけた。
(もっと速く走れればよかったのに、とても追いつけない・・・)
自分の運転の未熟さを恨みながら、どこかの信号で彼に追いつけるのではないかと走りつづけた。
何個目かの信号でとまったとき、ほのかに彼のあの香りがしたような気がした。
見回すと、少し先の道路脇に黒いバイクが留まっていて、黒い人影が立っている。
月子も脇にバイクをとめてエンジンを切ると、その人影がこちらに歩いてきた。
「そんなに飛ばしちゃ、危ないじゃないか・・・」
目の前にいるのは、まぎれもなく彼だった。
彼女はヘルメットを脱ぐと、
「 もう、二度と会えないと思っ・・・て」
月子がそう言いかける間もなく、彼は彼女を抱き寄せ、唇をふさいだ。
(・・・)
いきなり唇を奪われたが月子は驚いたものの、抵抗はしなかった。急いで来たので息が苦しかった。気が遠くなり膝がくずれそうになる。
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僕はたまらずに彼女を腕ごと抱きしめ、口づけをした。
革ジャンの上から両腕をまわしても余るほど、彼女の身体は細い。
長い口づけのあと、僕は月子を抱きしめながら言った。
「ごめん、どうしてもこのまま別れられなかった。
どこかで君が待っているような気がして、確かめたかった。
でも、探してくれたのは君だったね」
月子は返事のかわりに、首を縦に振りながら彼の背に腕を回しギュッとしがみついた。
僕はさらに彼女の身体を引き寄せて抱きしめた。彼女が苦しくないように。
もうすぐ夜明けがやってくる。
僕はこのまま彼女をさらってしまおうかとも思ったが、なんとか思いとどまった。
「あとで、ここに連絡してほしい」
僕はそう言うとプライベートの名刺を彼女に渡した。
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(二人とも、同じ気持ちだったということ?)月子は不思議な気持ちでいた。
月子は名刺を受け取り、少し微笑んだ。
彼は追いかけてきてくれた。自分も追いかけた。
そして再会できた。
暗がりで相変わらず彼の顔は見えなかったが、どうでもよかった。
月子は自分でも、こんなに大胆だったのかと、内心驚いていた。
「…僕は、仕事が不規則で…とても忙しいんだよ。
でも、必ず…時間をつくるから。
そしたら、またバイクの練習しよう」
「…それまで、腕を磨いておきます」
彼は再び月子を抱きしめると、
「…ごめん、今日出会ったばかりなのに」
と言った。
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