第16話
そのあと、僕は月子の先導で彼女を自宅前まで送った。
小さな駅前のこじんまりとしたマンションだった。
あたりはそろそろ白みかけてきた。
「…送ってくれてありがとうございました、帰り、気をつけてくださいね」
「じゃあ…また。…夜は一人で走るのはだめだよ」
名残惜しそうに、つないだ手を離すと、彼は去って行った。
月子はまるで長年付き合っている恋人を見送っているような気持ちで、彼が見えなくなるまで手を振っていた。
とても不思議で長い夜だった。
彼の残り香と抱きしめられた体の記憶がまだ残っている。
目を閉じると、激しい口づけを思い出して、月子はひとり赤面していた。
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僕はバックミラーのなかで小さくなってゆく彼女を見ていた。
まだ手を振っている。
(追いかけて……良かった)
あの子とこれからどうなるのかは、自分でも全く予測できなかった。
何も始まらず、このまま終わるのかも知れない。
いつものように、数回合って、それきりかもしれない。
ただ、抱きしめたとき、なぜかとても愛おしいと思った。
前方から朝日が登りはじめた。僕はアクセルをまわした。
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