第12話
月子は彼に向かって、頭を下げ、にこりと微笑むとシールドを下げた。
(アサト…さん…か)
月子はその先の何かを期待している自分がいることに動揺していた。
そんな気持ちを見抜かれるのが怖くて、一刻も早く去りたかった。
(私ったら、バカみたい。ちょっと偶然出会って、助けてもらって、バイク仲間では良くある出会いと別れなのに、私ったら何期待してるんだろう・・・)
月子は本来、決して惚れっぽいほうではなかった。
むしろいい大人になっても恋からは遠ざかっていた。
対外的には愛想の良い女性で通っていたが、飲み会などでもあまりはしゃいだりするほうではなかったし、
職場では管理職でもあるため周りからは、冷たそう、理想が高そうなどと言われていた。
しかし、彼女はそんな噂には慣れっこだったし、元々楽天的な性格なので特に気にしてはいなかった。
恋愛に関しても、相当奥手だった。
数年前に1年付き合った人と別れてから誰とも交際していない。
別にその男性に未練があったわけではなく、ただ、仕事が忙しくなり、他に出会いが無かったというのが正直なところだった。
友人の中には、飲み会の流れで行きずりの関係を楽しんだり、もう若くはないんだから、と理由をつけては、短い恋愛を繰り返している子もいた。
しかし、彼女はどうしてもそういう恋愛ができなかった。
会ったばかりですぐになんて、正直考えられなかった。
逆に、もしそう思える人がいるのなら出会ってみたいものだと思っているぐらいだった。
いざとなると自信はなかったが。
それなのに、
(私ったら、初対面で顔も見えない人に、ドキドキするなんて。ちょっとへんになってるかも)
彼女はそう思うことにした。
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僕は、数時間過ごしただけの彼女と、このまま別れてしまうことに激しい違和感を感じていた。
果たして、それが何なのかは分からなかった。
彼女がちょっと美人だったからなのか、ただ興味がわいただけなのか、何なのか。
よくわからないモヤモヤとした感情が胸に広がる。
しかし、彼が普段気軽にしているように、女性を誘うことは何故かためらわれた。
月子はバイクにまたがるとエンジンをかけ、思い切りよくインターを出て行った。
(私、本当にどうしたんだろう、この気持ち、なんか、胸が…苦しい)
なぜだか、泣きそうになりながら吹っ切るつもりで、アクセルをまわした。
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