ありきたりの別れ

第11話

二人は次のインターで一度高速道路をおりると、再び乗り、東京方面へ帰路を走っていた。


僕は不思議な開放感に浸っていた。


(こんな気持ちは何年ぶりだろう、自由で開放的な)


ミラーで後ろを走る彼女を確認すると、安定して運転出来ていた。



月子は前を走るテールランプに守られながら、安心して走ることが出来た。


時々彼のコロンのようなが香ってくる気がした。


帰りは、なだらかなカーブが続き、それを越えると月子の降りるインターまですぐだった。



(もうすぐ、先導さんとお別れ。都心の人かな。最後にちゃんとお礼言いたかったな。本当に助かったもの)



山道が開け、平野の夜景が眼下に広がる。


時間はもうすぐ午前1時。



僕は、夜明けまでドライブする予定でいたが、予想外の出来事もあり、今夜はおとなしく帰ることにした。


確か、Kインターで彼女は降りると言っていた。


夜中なので、家の近くまで送ってあげたい気もしたが、初対面の見知らぬ男にそこまでされては、かえって彼女は怖がるだろう。


僕はインター手前の停車帯でハザードを出し、バイクを停めた。


二人はバイクから降りた。



「本当にありがとうございました」


彼女はシールドを上げて頭を深々と下げた。


僕は右手を差し出して彼女とグローブ越しに握手をしながら、


「こちらこそ、なんだか楽しかったよ。じゃあ、最後まで運転気をつけて」


僕はその先の言葉を言いあぐねていた。


(。。。いつもの自分だったら、こんなことは有り得ないな)



ちょっといいな、と思う女性はその場で誘うか、メアドを渡すのが常だった。


いわゆるお近づきのしるしとして。


正直、僕は今の自分の気持ちと行動に戸惑っていた。


しかも、なぜか、握手した手を離せずに沈黙になっている。


彼女のほうが遠慮がちにそっと手を離すと、


「私、月子って言います。月の子って書いて…月子。では、行きますね」


「あ、あぁ。そうだね、もう行ったほうがいいな。僕はアサト。気をつけてね」

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