第9話
辺りは再び静かになり、二人はしばらく暗闇の中、惚けたように黙って座っていた。
秋の虫の声だけが聞こえる。
(・・・正直、緊張したな)
先ほど彼がサービスエリアから出ようとバイクをスタートさせようとしたとき、何気なく見わたすと、ベンチに座る女性に男達が近づいてゆくのが見えた。
アメリカンバイクは無数の改造バイクに囲まれている。
(そうか、あのノロノロバイクは女性だったのか…)
一瞬、見過ごして行ってしまおうかとも思ったが、人気のない場所だ、女性一人ではいくら何でも危ない。
僕は、バイクを置いて集団のほうにゆっくりと近づいていった。
(最悪、トラブルになったらその時考えよう)
と思いながら。
相手は10人ぐらいはいるだろうか。万が一喧嘩にでもなったら、いくら武術の心得があるとはいえかなり危ないと思った。
そうはいっても、いい大人が公共の場で殴り合いは無いだろうと賭けに出た。
案の定、幸いトラブルは無かった。
「きみ、大丈夫?」
僕は彼女に聞いた。
「…はい、ありがとう…ござい…ました。さっきも先導してくださった方ですよね?今も…すいませんでした」
月子がそう答えると、暗闇で男がヘルメットを脱いだのがわかった。
夜風に乗ってフワリと何かが香る。
月子も思い出したようにヘルメットを脱ぎ、息を大きく吸った。まだ心臓がドキドキしている。
男性の方に顔を向けながら、
「本当にすみませんでした。私、夜の高速道路走るの初めてだったんです。しかもこんなことになってしまって・・・申し訳ありません」
膝をかかえ、月明かりに照らされた彼女の顔が申し訳なさそうにうなだれている。
長い髪で顔が半分隠れていたが、色が白く大きな瞳が印象的だった。
(ほっといたら、マジで危なかったかもしれないな)
僕は少しホッとした。
「私、夜の高速、走ってみたくて・・・でも、浅はかでした」
彼女の声はだいぶ落ち着いてきたようだ。
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。確かに、夏の終りの夜は気持ちがいいから、走ってみたくなるのはわかるしね」
彼の声は穏やかで低くゆっくりで、少し笑っているようだった。
「でもさ、高速の山道は暗いから最初は誰かの後ろを走った方がいいよ。そのほうが走りやすいからさ。
僕もバイクは数年ぶりでね、最近はいつも車だったから。やっぱりバイクは気持ちいいよね、でもさ、女性一人はやっぱり色々危ないから、気をつけた方がいいよ」
静かな声でそう言った。
彼は立ち上がると自分のバイクのシートに腰を掛けた。
月子は遠慮がちに彼を見上げたが、街頭の逆光で彼の顔は見えない。
顎のラインと口元だけが、かろうじて見えるだけだった。
「あと、夜は…なるべくヘルメットはとらないほうがいいのかもしれない・・・なぁ。その髪見せたら男が寄って来ちゃうかもしれないからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます