第3話
3
夏も秋も冬も、もちろん春もこの世界にはありません。
しかし、十億年に二度だけ現れる、川の街へ訪れる切符をもらえるのが、ちょうどフサコたちの時代です。その日は特殊列車が発動します。子供たちは心弾ませて毎日、川の街の話ばかりしていました。フサコも話の輪の中にいましたが、心配していたことをみんなに聞きました。
「川の街は子供限定だから、山じいはいけないのかな?」
すると日に焼けたタカヨシがすぐに言いました。
「山じいも行けるよ。大人専用の特別切符を出してもらえるんだって」
それに続いて、
「瀬名先生も一緒に行くみたいだよ」
と、エリが長い髪をくるくる手で遊びながら言いました。
瀬名先生は、山じいのサポート係で、庭仕事をしたり、みんなの課題を手伝ってくれています。フサコは瀬名先生のことが少し苦手でした。みんなに優しいけれど、フサコがいるときだけは怒っているかのように見えたからです。友達は活発だけど自分の行動が遅いことにフサコは気付いていました。だから瀬名先生は、フサコがいるといつもイライラしているのかな、と考えて落ち込みました。
子供たちが、おしゃべりをやめて庭に出ました。山じいと瀬名先生が並んでいます。山じいが言いました。
「みんなよく聞いてほしい。川の街へ行くが、注意点が三つある。一つ目は、往復切符は各自で保管して絶対になくさないこと。二つ目は、川の街に着いたら、瀬名先生から決してはぐれないこと。三つ目は」
といって、山じいは眉間にしわを寄せていたので、子供たちがわくわくする気持ちとは反転して、その場の空気が変わってしまいました。
「帰りの列車に乗り遅れたら、二度とここへは帰れない。くれぐれもそのことに注意してほしい。分かったかな?」
みんな顔を見合わせて、ばらばらに手をあげました。フサコは、山じいの話を聞いて、川の街へ出かけることが、なんだか怖くなりました。
出発の日は二日後でした。フサコは、家に帰ってから自分の部屋で川の街の切符をながめていました。そこへ、お母さんがやってきて、フサコに言いました。
「川の街に行けるなんてよかったね」
フサコは、お母さんに本音をもらしました。
「なんだか行くのがいやだな。知らない街だから、こわい」
「大丈夫。きっと素敵なところよ。フサコも気にいると思うし、十億年に二度しかないチャンスよ。楽しまなくっちゃ」
「そうかな」
「そうよ。お母さんも行ってみたかったな」
「お母さんも川の街へ行きたかったの?」
「そうねえ。でもお母さんが子供の時代は、魂の混雑が激しかったし、川の街に行ける時代ではなかったから、フサコがうらやましいわよ。帰ってきたらお話、聞かせてね」
「うん。わかった」
フサコはお母さんと話して少しだけ気もちが落ち着いて、川の街のことを思いながら、眠りにつきました。
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